転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹の為にラスボスポジション返上します〜

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

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第3章 亡国の王子を籠絡せよ

8.静かな屋敷(前編)

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 ――それから俺は丸三日間、文字通り部屋に軟禁された。

 というより実際は怪我が痛くて抵抗する気にならなかっただけとも言えるが、とにかく、俺は屋敷どころか部屋から一歩も外に出してもらえなかった。

 食事は使用人が部屋まで運んでくれるし、なぜか着替えもある。トイレもバスルームも部屋に完備されていて生活に困ることはないものの、三日も経つとさすがに気分が滅入ってきた。

 なんといっても話し相手がいないのが辛い。

 使用人は皆ユリシーズから何か言い付けられているのか、話しかけても最低限の言葉しか返してくれないし、俺を部屋に閉じ込めたユリシーズ本人は会いにすら来ないのだ。

 そんなわけで、俺はただひたすらに暇だった。

 この家の主治医であるストウナー先生(四十前後の物静かな男性医師)が毎日怪我の経過を診にきてはくれるが、彼も使用人同様に診察を終えるとそそくさと立ち去ってしまう。

 どうも、俺と話すとよほど都合の悪いことがあるらしい。


(――にしてもこの屋敷……やっぱりすごく違和感があるんだよな)


 三日目の朝食を終えた俺は、無理のない範囲で筋トレをしながら、昨日、一昨日のことを思い出す。

 ◇

 軟禁一日目。
 朝起きた俺は、深く考えずにまっさきに扉を開けようとした。が、どうも外から鍵がかけられているようで開かない。

 まさか鍵を閉められるとは――。

 俺はかなりショックを受けたが、仕方がないので朝食を運んできたメイドに「ユリシーズを呼んでくれ」と声をかけた。が、メイドは淡々と「ユリシーズ様はお出かけになりました」と答えるだけ。

 なら他の家族はどうだろうかと、「他の家族はいるか。泊めてもらった礼を言いたい」と伝えたら「全員外出している」と返ってくる。

 そのときは納得した俺だが、昼になっても夜になっても、ユリシーズの家族が帰ってくる気配はなかった。
 途中門から一台の馬車が出入りしたが、それは前述したストウナー先生を乗せた馬車で、ハミルトン伯爵家の者の出入りはなし。

 当然、ユリシーズが帰ってくる気配もない。
 廊下から話声が聞こえてくることもなく、庭を行き来する庭師ガーデナーの姿もない。

 うちの屋敷ではメイドの声が大きくて母親がたまらず注意するくらいだから、随分と雰囲気が違っている。――まぁ、教育が行き届いているとも言えるのだろうが。

 しかしこれはどうしたものか――そんなことを考えている間に夜八時を迎え、メイドが夕食を運んできた。朝昼とは別の、リリアーナと同じくらいの歳の若いメイドだ。

 俺が「ユリシーズは帰ってきたのか?」と尋ねると、その子は顔をサアッと青ざめる。

「は……はい。ですが……もうお休みになりました」
「――え? でも、俺ずっと門を見てたけど、誰も入って来なかったぞ?」
「そっ……それは……その、ユリシーズ様は、正面玄関をお使いにならないので……」
「……?」

 それはいったいどういう意味だ?

 俺は更に尋ねようとしたが、メイドは慌てて部屋を飛び出していった。

 ――変わったメイドだな。

 そのときは、それくらいしか思わなかった。


 けれど二日目も全く同じで、門から人が出入りする気配はない。
 というか、屋敷全体に人の気配がない。
 ユリシーズの兄はともかく、少なくともハミルトン夫妻はここに住んでいるはずなのに、だ。

 もしや全員旅行中か? いやだが、今は十二月。社交が始まる季節だ。
 この時期に貴族が旅行することは一般的に有り得ない。

(これ……さすがに何かおかしくないか……?)
 

 三日目の朝を迎えた俺は、相も変わらず静まり返ったこの屋敷に、気味の悪さを覚えていた。

 そもそも、俺は今までこの屋敷に来たことがあっただろうか? 少なくとも、馬車の事故以来初めてだ。
 それ以前は覚えていないが、この部屋はユリシーズの部屋なはずなのに少しも見覚えがない。――ということは、きっと来たことがないのだろう。

 俺の中からアレクの記憶が殆ど消えてしまったとは言え、今の俺も道や店の場所などは何となく覚えているのだから。

(つまりユリシーズには、俺を家に呼べない理由があった……ってことか?)
  
 ――もしかしたら、ユリシーズが俺を閉じ込めているのもそれが原因なのかもしれない。

 どちらにせよ、もう三日。このままズルズルと何日も経ってしまったら、色々と取り返しがつかなくなる。

 窓から飛び降りて逃げ出すという手もあるが、できればそれはしたくない。そんなことをしたら、本当に俺たちの関係が終わってしまうだろうから。


「とにかく、ユリシーズと話をしないと……」

 あいつが今いったい何を考えているのか。どうしてここまでするのか、俺は知る必要がある。

「仕方ない。……一発やってやるか」

 王都に戻ってからずっと練習してきた。
 この三日間も、怪我の痛みに耐えながら欠かさなかった浮遊魔法。

 制限時間は五分程度とまだまだ短いけれど、ユリシーズをおびき出すだけなら十分だ。
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