転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹の為にラスボスポジション返上します〜

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

文字の大きさ
上 下
68 / 74
第3章 亡国の王子を籠絡せよ

6.まさかの軟禁?!(前編)

しおりを挟む


「――で、結局あの男は誰なの、アレク」
「……そ、それは……」
「言うまで、この屋敷から一歩も外には出さないからね?」
「……っ」


 ◇


 ノアにボコられたその日の夜、俺はハミルトン伯爵邸――ユリシーズの部屋のベッドで、家主であるユリシーズに詰められていた。

 ――これまでの経緯はこうだ。


 昼間カフェで俺が席を立ったあと、ユリシーズは急いで会計を済ませ俺を探してくれていた。
 そして、ノアにのされている俺を発見した。

 それを見たユリシーズは、ノアを俺から遠ざけようと氷の刃を放った。が、その攻撃はノアの風魔法によってすべて軌道を逸らされてしまったらしい。

 結局ノアはそのまま逃走し、その場には俺だけが残された。

 その後のことは、俺もおぼろげながら覚えている。

 ユリシーズに名前を呼ばれ目を覚ました俺は、「すぐに神殿に行こう」というユリシーズの言葉に、「それは嫌だ」と突っぱねたのだ。

 神殿に行けばリリアーナが……それに、セシルやグレンやサミュエルがいる。
 俺が怪我を負わされたことを知られたら、誰の仕業だ何だと騒ぎになるに決まっている。
 それだけは駄目だ――そう思った。

 神殿には連れて行くなと告げた俺に、ユリシーズはなんやかんや言っていた。

 けれど最終的には俺の意を組み、俺の屋敷に戻ったところで騒ぎになるのは同じだろうからと、仕方なくハミルトン邸に俺を運び込んでくれたのだ。

 その後俺はユリシーズが手配してくれた医者によって手当てを受け、今に至る。


「――アレク、君はことの重大さがわかっていない。そもそも平民が貴族を傷付けることは許されていないんだ。もしそんなことになったら、貴族は私刑を行使していいことになってる。それにたとえ貴族同士であろうと、この怪我なら傷害罪が適応されるだろう。つまり、これは立派な犯罪なんだよ。なのにどうしてあの男を庇うの? さっきの男が、君の探していた人物だから?」
「――っ」

 ベッドに片膝を乗せ、至近距離で俺を睨むユリシーズ。
 声は淡々としているように聞こえるけれど、その目は確実に強い怒りを含んでいる。

「あまり僕をなめてもらっちゃ困る。さっきの男が君の探している人物で、だから君がこうして庇うってことくらいお見通しだよ。でもね、アレク。それとこれとは話が別だ。彼が君の知り合いであろうと、たとえ貴族であろうと、君にこんなことをしたあの男を僕は決して許すつもりはない。君が話さないっていうなら、僕にだって考えがある」

 その怒りの表情に、俺は流石にヤバイと思った。
 ユリシーズのこの顔は……本気だ。

 ――でも。

 だからと言って、ここでノアの秘密を話すわけにはいかない。
 たとえユリシーズが信頼のおける相手だとわかっていても、あいつがノアだってことや、亡国の王子だということはまだ話すわけにはいかない。

 だってもしもこれを話したら、それは俺が勝手にノアの秘密をバラしたことになる。
 あいつが隠していることを、隠したいことを、他の奴らに知らせてしまうことになる。

 それだけは駄目だ。――それだけは……できない。言えない。

 ノアの許しがあるまでは、俺は誰にも話せない。――だから。


「ごめん、ユリシーズ。言えないんだ。あいつが誰かってことは……まだ言えない。近いうちにちゃんと話したいと思ってるけど……今じゃないんだ」
「…………」
「わかってくれとは言わない。実際、俺があいつに怪我させられてるのは事実だし。俺だってもしユリシーズが同じ目にあったら絶対に許せないから。……お前の気持ちは、十分理解できるつもりだよ」

 俺はユリシーズに訴える。

「お前のことは信じてる。本当に信頼してる。でも言えないんだ。あいつとちゃんと話ができるまでは……何も言えないんだ」
「…………」
「だから……ほんとに、ごめん」

 俺はベッドに座ったまま、ユリシーズに頭を下げる。

 ユリシーズの気持ちを裏切ってしまったかもしれない、その罪悪感に苛まれながら。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...