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第3章 亡国の王子を籠絡せよ

6.まさかの軟禁?!(前編)

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「――で、結局あの男は誰なの、アレク」
「……そ、それは……」
「言うまで、この屋敷から一歩も外には出さないからね?」
「……っ」


 ◇


 ノアにボコられたその日の夜、俺はハミルトン伯爵邸――ユリシーズの部屋のベッドで、家主であるユリシーズに詰められていた。

 ――これまでの経緯はこうだ。


 昼間カフェで俺が席を立ったあと、ユリシーズは急いで会計を済ませ俺を探してくれていた。
 そして、ノアにのされている俺を発見した。

 それを見たユリシーズは、ノアを俺から遠ざけようと氷の刃を放った。が、その攻撃はノアの風魔法によってすべて軌道を逸らされてしまったらしい。

 結局ノアはそのまま逃走し、その場には俺だけが残された。

 その後のことは、俺もおぼろげながら覚えている。

 ユリシーズに名前を呼ばれ目を覚ました俺は、「すぐに神殿に行こう」というユリシーズの言葉に、「それは嫌だ」と突っぱねたのだ。

 神殿に行けばリリアーナが……それに、セシルやグレンやサミュエルがいる。
 俺が怪我を負わされたことを知られたら、誰の仕業だ何だと騒ぎになるに決まっている。
 それだけは駄目だ――そう思った。

 神殿には連れて行くなと告げた俺に、ユリシーズはなんやかんや言っていた。

 けれど最終的には俺の意を組み、俺の屋敷に戻ったところで騒ぎになるのは同じだろうからと、仕方なくハミルトン邸に俺を運び込んでくれたのだ。

 その後俺はユリシーズが手配してくれた医者によって手当てを受け、今に至る。


「――アレク、君はことの重大さがわかっていない。そもそも平民が貴族を傷付けることは許されていないんだ。もしそんなことになったら、貴族は私刑を行使していいことになってる。それにたとえ貴族同士であろうと、この怪我なら傷害罪が適応されるだろう。つまり、これは立派な犯罪なんだよ。なのにどうしてあの男を庇うの? さっきの男が、君の探していた人物だから?」
「――っ」

 ベッドに片膝を乗せ、至近距離で俺を睨むユリシーズ。
 声は淡々としているように聞こえるけれど、その目は確実に強い怒りを含んでいる。

「あまり僕をなめてもらっちゃ困る。さっきの男が君の探している人物で、だから君がこうして庇うってことくらいお見通しだよ。でもね、アレク。それとこれとは話が別だ。彼が君の知り合いであろうと、たとえ貴族であろうと、君にこんなことをしたあの男を僕は決して許すつもりはない。君が話さないっていうなら、僕にだって考えがある」

 その怒りの表情に、俺は流石にヤバイと思った。
 ユリシーズのこの顔は……本気だ。

 ――でも。

 だからと言って、ここでノアの秘密を話すわけにはいかない。
 たとえユリシーズが信頼のおける相手だとわかっていても、あいつがノアだってことや、亡国の王子だということはまだ話すわけにはいかない。

 だってもしもこれを話したら、それは俺が勝手にノアの秘密をバラしたことになる。
 あいつが隠していることを、隠したいことを、他の奴らに知らせてしまうことになる。

 それだけは駄目だ。――それだけは……できない。言えない。

 ノアの許しがあるまでは、俺は誰にも話せない。――だから。


「ごめん、ユリシーズ。言えないんだ。あいつが誰かってことは……まだ言えない。近いうちにちゃんと話したいと思ってるけど……今じゃないんだ」
「…………」
「わかってくれとは言わない。実際、俺があいつに怪我させられてるのは事実だし。俺だってもしユリシーズが同じ目にあったら絶対に許せないから。……お前の気持ちは、十分理解できるつもりだよ」

 俺はユリシーズに訴える。

「お前のことは信じてる。本当に信頼してる。でも言えないんだ。あいつとちゃんと話ができるまでは……何も言えないんだ」
「…………」
「だから……ほんとに、ごめん」

 俺はベッドに座ったまま、ユリシーズに頭を下げる。

 ユリシーズの気持ちを裏切ってしまったかもしれない、その罪悪感に苛まれながら。


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