転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹の為にラスボスポジション返上します〜

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

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第3章 亡国の王子を籠絡せよ

2.ゲームの記憶とこれからのこと(中編)

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 前置きが長くなったが、とにかく俺はひとまずノアを探すことに決めた。
 前世の妹情報が正しければ、そろそろノアが登場するころだからだ。

 リリアーナとの出会いは、ノアが何者かの襲撃を受けて怪我をし路地で倒れているところを、リリアーナが偶然発見して介抱するという鉄板展開。

 が、正直言って、俺はもうその展開は期待できないと思っている。
 リリアーナが既にセシルと結ばれてしまっているからだ。

 というわけで俺は、四日前からノアを探して一日中街を歩き回っている。――とは言え、残念ながら今のところ収穫はゼロ。
 その上、今日は図らずもユリシーズが一緒なせいでむやみにうろつくこともできない。


(俺がノアを探してることは、こいつには内緒なんだよなぁ)


 ノア・クロウリーは世間的には殺人犯だ。何なら指名手配もされている。
 もし俺がそんな奴を探しているだなんてユリシーズに知られたら、絶対に止められるに決まっている。

 だから俺はユリシーズには内緒で一人でノアを探していたのだが、今朝早く俺が出掛けようとしたら、門の前でユリシーズが待ち伏せしていたのだ。
 どうやら、ここ数日いつ尋ねても俺が留守なことを不審に思ったらしい。

「こんなに朝早くからどこに行くの?」――と笑顔で尋ねられた俺は咄嗟に「ひっ……人探し」と馬鹿正直に答えてしまい、さらに不審がられるという始末。

 結局俺は、「僕も手伝うよ」というユリシーズの申し出を断り切れず、付いてこられて今に至るというわけだ。(ちなみに、このこじゃれたカフェを選んだのは俺だ。ユリシーズの「誰を探してるのか」という問いをかわそうと、「あっ俺喉乾いた休憩しようぜ」と言ったら丁度このカフェの前だったというだけの理由)


「それで? 誰を探してるって?」

「あっ……あ~……それは……だな」

(――いかん。話題が一周してしまった)

 どうやって話を誤魔化そうか――時間稼ぎにティーカップを口に運ぶが、中身はすっかり空になっていて、ますます怪訝な顔をされる。

「アレク、君、本当に隠し事が下手になったよね」
「んっ……!?」
「記憶を失う前の君は、何を考えてるか全然わからなかったのに」
「……そ、そうだったっけ……?」
「そうだよ。僕やリリアーナの前でさえほとんど話さなかったからね。君、自分が周りから何て呼ばれてたか知らないだろう? “冷徹貴公子”って。とくにレディたちから」
「――ブッ」

 ユリシーズの思わぬ言動に、俺は何も飲んでいないにも関わらずゴホゴホと咳き込んだ。

 まさか俺にもそんなよくわらかない二つ名が付いていたとは……乙女ゲーム、恐るべし。

 ――にしても"冷徹貴公子"とは、何と悪役っぽいあだ名だろうか。

「俺ってそんなに悪逆非道だったか? 確かに愛想はなかったかもしれないが、冷徹ってほどじゃなかっただろ」
「え? それは覚えてるんだ?」
「それはまぁ……覚えてるっていうか、覚えてた記憶があるっていうか」
「へぇ?」


 四ヵ月前に俺が前世の記憶を思い出したばかりのとき、この身体には確かにアレクの記憶が残っていた。
 そのときの記憶では、"冷徹"と呼ばれるほど冷たい男ではなかったはずだ。
 
 記憶との差異を不思議に思った俺が尋ねると、ユリシーズは呆れた顔で「でも、鈍感なところは相変わらずだ」と言って、肩をすくめる。

「鈍感? 俺が?」
「そうだよ。――と言うより、単に興味がないだけなんだろうけど」
「興味? いったい何の話だ?」

 俺が「はっきり言えよ。意味わからん」と伝えると、今度は周りの客をぐるりと見まわすユリシーズ。
 そしてこんなことを言い出した。

「ほらね、やっぱり気付いてない。この店の全員が君のことを見てるのに」――と。

「……はぁ?」


 ユリシーズの言葉は、俺にとってまさに青天の霹靂だった。

 確かに店に入ったときから「やたら見られるな」と思っていたが、それはこんな女性向けの店に男二人の客が珍しいからだと考えていた。

 それに国境への道中だって――周りからの視線を感じることはあったけれど、それは当然セシルやグレンに向けられたものだと信じて疑わなかった。

 だが、実はそうではなかったと……ユリシーズは、俺自身がモテるのだと言っているのか? 

(いやいや……まさかそんなわけ……)

 そう思いつつ、俺は周りの女性客の様子を伺う。

 すると女性たちは俺と視線が合うや否や、揃いも揃って同じ反応を見せた。
 皆一様に頬を赤く染め、ボーっと俺を見つめ返すか、あるいは恥ずかしそうに顔を背けるか。

 それはまるで、アイドルと目が合ったときのように。

(え……? マジで……?)

 正直言って信じられない。

 確かに前世では何人かと付き合った経験があるが、俺は断じてモテたことはないのだ。
 だから、まさか自分がモテるポジションにいるとは考えたこともなく……。

 けれど確かに、よくよく考えてみればアレクの容姿は上の上。身長も百八十センチを超えている。
 加えて伯爵家の嫡男ともなれば……。

(ついに俺にも、人生初のモテ期、到来……?)

 自身に向けられる女性からの好意に、俺の心が浮足立つ。

 俺も男だ。こんな漫画的状況、美味しくないはずがない。――のに……どうしてだろう。前世なら浮かれまくっていた状況なのに、思っていたより……嬉しく、ない……?


(何だこれ。俺……なんか変だぞ……)


 普通なら、前世の自分だったなら絶対に興奮するであろう状況なのに。
 どうして俺は、何も感じないんだ?

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