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第2章 北の辺境――ノーザンバリー

41.雨降って地固まる(後編)

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 ――そうだ。俺は間違ったことは言っていない。
 選択を間違えたとも思わない。

 バッドエンドを回避するためだけじゃない。それ以外にも、この身体を治したい理由は沢山あった。
 そうしなければ俺は俺のままでいられない、多くの理由が――。

 俺はユリシーズを見据え、はっきりと言い放つ。

「お前に相談しなかったことは悪かったと思ってる。それについては謝る。でも俺は、自分の選択が間違いだったとは思わないし、たとえそれで死んでも後悔はしなかった。絶対にだ」
「……ッ」

 すると、ユリシーズは悔しそうに顔を歪める。
 やっぱり納得はできないと……そんな顔で……口を開く。

 ――が――そのときだった。


 突然、フッと蝋燭の炎が消えたような感覚がして、俺の膝から力が抜ける。

 と同時に、俺はようやく気が付いた。自分がずっと魔法を使い続けていたことに。
 俺の頭上を浮遊する水球。そこに繋いだ魔力の線を切断するのを忘れ、ずっと魔力を注ぎ続けていたことに。

(しまった……! これ、魔力切れだ……!)

 だが今ごろ気付いてももう遅い。

 足の力が抜けた俺は、ユリシーズに押し倒される形で背中から地面にひっくり返る。当然、ユリシーズも一緒に。

 そんな俺たちの頭上で、強制的に魔力の供給を絶たれた水球に重力が戻り――次の瞬間……。


 ――バッシャアアア!!!


 と、盛大な効果音と共に、俺たちにぶっかかった。



 そして数秒の沈黙……からの……。



「……は? ……アレク? 何、これ……?」



 ユリシーズの頭からボタボタとしたたり落ちる大粒の雫。ぐっしょりと塗れた服。
 そして、地を這うような低い声。

 極めつけは、俺をじっと見下ろす何の感情も無い瞳。
 それは早々お目にかかれない、ユリシーズの絶対零度の怒りの眼差しだった。


(や……やらかした……)


「わ……、悪い! ほんとにごめん! でもわざとじゃないんだ! ただちょっと、魔力が切れちゃって……」
「うん? 今、魔力切れって言った? つまり君は、身体が治ったのをいいことにさっそく無茶をしたってことかな?」
「えっ」
「ほんと、いい加減にしろよ?」
「――ッ!?」
 
(こいつ、キャラ変してないか……!?)

 俺は這って逃げだそうとする。が、ユリシーズに床ドンされ退路を塞がれてしまった。

「ユ……ユリシーズ……? あの……俺……男に床ドンされる趣味は……」
「は? 何言ってるの? 僕は今から、君に魔力切れの危険性をレクチャーするだけだよ」
「なら……この体勢じゃなくてもよくないか?」
「逆に、この体勢で困ることある? 逃げようったってそうはいかないからね?」
「…………」

(ああ、駄目だ。これはもう、言うことを聞く以外にない……)


「さ、アレク。楽しいお勉強の時間だよ?」
「……ッ」


 ――こうして俺はこの後小一時間、早朝の冷えた庭園でユリシーズからキツーイ説教を食らい、そのせいで二人揃って風邪をひくという何とも情けない展開になるのだが、それはまた別の話。
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