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第2章 北の辺境――ノーザンバリー
39.賭けへの勝利と思わぬ拒絶(後編)
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その後、俺は庭園の芝生に寝転がって青空を見上げていた。
まだ早朝――十月も末のこの時期は気温も低く、散歩する人間はいない。この時間に来るとしたらせいぜい庭師くらいだろう。
つまり、俺が芝生に寝そべっていようと何の問題もない。
「あー。ほんと意味わかんねぇ。何なんだよ、あいつ……」
先ほどのユリシーズのあの態度。
最初は大きなショックを受けたが、今になってそれが怒りに変わってきていた。
部屋から追い返すとか――いったい俺があいつに何をしたというのか。
「全っ然わからん……」
――そう言えば前世、二人目の彼女にも同じような態度を取られたことがある。
突然冷たくされ、理由を聞いても答えてくれず、仕方がないので放置したらある日突然振られた。
本当に意味がわからなかったし、今でもどうして振られたのかわからない。
今の状況はあの時に似ているような気がする。
(でも、ユリシーズは俺の彼女じゃないし。だいたいあいつ、男だし)
――ま、考えてもしょうがない。
俺はユリシーズのことを頭の隅に追いやり、魔法を使ってみることにした。
魔力が正常に循環するようになった今の身体なら、より威力のある浮遊魔法が使えるはずだ。
「さて、ターゲットは何にするかな」
俺は上半身を起こし辺りを見回した。
すると十メートルほど離れた花壇の隅に、水の入ったバケツを発見する。
八分目まで水の入った、それなりに重そうなバケツだ。
あれを零さず持ち上げることができれば……。
――俺はバケツに意識を集中させ、心の中で、"浮け"――と強く念じた。
するとバケツが左右にカタカタと震えた後、ゆっくりと浮遊し始める。
と同時に、俺の中から何かが減り始めるのを感じた。
全身から力が抜けるような、急激に腹が減るような……何とも不思議な感覚。
きっとこれが、魔力を消費するということなのだろう。
(……なるほど。これは確かに減りすぎると危ないかもな。でもすげー楽しい)
魔力の循環が改善されたおかげで放出量に制限がなくなった。
その分消費量は激しいが、昨日までと比べると断然魔法の使いやすさが違う。
俺はバケツを上へ下へ、右へ左へと動かして、文字通り魔法で遊んだ。
そうしているうちに、俺はあることに気付く。
(よく考えたら浮遊魔法って、当然のことだけど無重力状態ってことなんだよな? だったら、あのバケツの中の水も当然浮くよな?)
宇宙では確か、水は綺麗な球体になるんだったはず。表面張力が何とやらってやつだ。
俺はさっそく試してみる。
今までバケツに注いでいた魔力を、中の水へと移動させていく。
すると一定以上の魔力が水に移動したところで、バケツは重力に負けて地面に落下した。
けれど水は浮いている。完全な球体で――。つまり、成功だ。
水球の下から太陽を見上げると、海の中から空を見上げているように表面が煌いて見えた。
この水球を作っているのが自分だと思うと、なんだかとても不思議だ。
(これ、我ながら凄くないか?)
身体にロイドの魔力を注がれたときは死ぬほど痛かったが、これだけの収穫があるならば……。
(ロイドには、本当に感謝しなくちゃな)
そんなこんなで、俺はしばらく水球を眺めていた。
――が、どれくらい時間が経った頃だろうか。
「アレクッ!」と、背後から名前を叫ばれ、俺は咄嗟に振り返る。
するとそこにいたのは、息を切らせて俺を鋭く睨む、ユリシーズの姿だった。
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