55 / 74
第2章 北の辺境――ノーザンバリー
38.賭けへの勝利と思わぬ拒絶(前編)
しおりを挟む
俺が目覚めたのは明け方のことだった。
窓から差し込む朝日の眩しさに目を開けると、目の前にあったのはスヤスヤと寝息を立てるロイドの顔。鼻先が触れそうな距離で、気持ちよさそうに眠るロイドの顔のドアップだった。
「――うわッ!?」
俺は慌てて飛び起きる。
どうしてロイドが隣で寝てるんだ。――そう考えて思い出す。
俺は気を失っていたのだ。あまりの痛みに、あっさりと気絶したのだ。
が、こうしてロイドが寝ているということは処置はすべて終わったのだろう。
約束通りロープはすべて外されているし、すぐに気を失ったからか腕にロープの痕も残っていない。
(……これ、成功したのか? それとも失敗したのか? どっちだ……?)
そう考えて、俺はあることに気が付く。
(そう言えば……身体が軽い気がする……)
そう、身体が軽いのだ。
別に今までが不調だったというわけではないのだが、びっくりするほど気分がいい。
つまり、これは……。
「成功……?」
俺は真偽を確かめようと、寝ているロイドの肩を揺り動かす。
「ロイド! 起きてくれ!」
すると、「うぅん」と小さく声を上げ、ロイドはそっと瞼を開ける。
「……あ~……おはよ、……アレク」
「ああ、おはよう――じゃなくて! どうなったんだよ、あれから! 成功したのか!? 成功したんだよな!?」
身体のどこにも痛みはない。倦怠感もない。むしろ軽くなっている――となれば、成功したに違いない。
そう思いつつも、ロイドの言葉を聞くまで安心はできなくて。
俺はロイドの肩を更に揺すり、確信を得ようとした。
するとロイドはうつらうつらしながら、ようやく答えてくれる。
「……ん……成功したよ。……僕って……ほんと……天、才……」
「でかした! お前はほんとに凄い奴だ! まさかこんなに調子が良くなるなんて思ってもみなかったぞ!」
俺は興奮しながらロイドの頭をわしゃわしゃと撫でる。
けれどロイドはよほど疲れているのか、再び瞼を閉じてしまった。
「おい、ロイド? 大丈夫か?」
「ん……。ちょっと……眠いだけ……」
「そうか。そんなに大変だったんだな。本当に、お前にはなんて礼を言ったらいいのか」
「いいよ……別に。……それより……僕……今日…………一日………………寝る……から……」
ロイドはそれだけ言い残し、再び寝息を立て始める。
その寝顔からは少しも邪鬼を感じなくて、俺は意味もなく、ロイドの頭をもう一度撫でた。
「ありがとな、ロイド」
本当に、こいつには感謝してもしきれない。
気絶する瞬間は本当に死ぬのではと思うほどの痛みに襲われたが、こうして全て終わってみれば痛みどころか、かつてないほどの健康体になっているのだから。
「本当に……ありがとな」
俺の隣で死んだように眠るロイド。
その幼い寝顔を見下ろし、俺はこれからの未来に思いを馳せる。
これでリリアーナの役に立てるはずだ、と。
俺はラスボスになんて絶対になってやらないぞ、と。
「さて、と。じゃあまずは、ユリシーズに話をしにいかなきゃな」
(まぁ、間違いなく怒られるだろうけど……)
――俺はユリシーズに怒られる覚悟を決め、部屋へと向かった。
◇
けれど、俺の能天気な考えはあっという間に覆された。
ユリシーズが部屋に入れてくれないのだ。
話があると言っても、「僕は話すことはない」と拒絶される。
こんなことは初めてで、俺はどうしたらいいのかわからなくなった。
「ユリシーズ! お願いだ、入れてくれ!」
俺は扉の前で食い下がる。
けれど中から返ってくるのは、「何も聞きたくない」という冷たい声だけ。
でも、俺にはユリシーズがそんな態度を取る理由がどうしてもわからなかった。
「俺……お前に何かした?」
正直、何も身に覚えがない。
確かに深夜のやり取りはユリシーズの気持ちを汲むものではなかったかもしれないが、だからと言ってこんな態度を取る理由にはならないだろう。
(一度出直すか? でも、この様子じゃ出直したところで同じだろうな)
――仕方ない。
俺は諦めて、メモを残すことに決める。
別に、俺としては要件だけ伝えられればいい。
直接話した方が誠実だと思っただけで、向こうが拒否するなら仕方ないだろう。
俺は通りがかった使用人を呼び止め、紙とペンを持って来させる。
そこに『身体はロイドに治してもらった。もう心配はいらない』と書いて二つ折りにし、ドアの下から差し込んだ。
去り際、「紙に書いたから読んでくれ」と中に向かって言い残し――俺はその場を後にした。
窓から差し込む朝日の眩しさに目を開けると、目の前にあったのはスヤスヤと寝息を立てるロイドの顔。鼻先が触れそうな距離で、気持ちよさそうに眠るロイドの顔のドアップだった。
「――うわッ!?」
俺は慌てて飛び起きる。
どうしてロイドが隣で寝てるんだ。――そう考えて思い出す。
俺は気を失っていたのだ。あまりの痛みに、あっさりと気絶したのだ。
が、こうしてロイドが寝ているということは処置はすべて終わったのだろう。
約束通りロープはすべて外されているし、すぐに気を失ったからか腕にロープの痕も残っていない。
(……これ、成功したのか? それとも失敗したのか? どっちだ……?)
そう考えて、俺はあることに気が付く。
(そう言えば……身体が軽い気がする……)
そう、身体が軽いのだ。
別に今までが不調だったというわけではないのだが、びっくりするほど気分がいい。
つまり、これは……。
「成功……?」
俺は真偽を確かめようと、寝ているロイドの肩を揺り動かす。
「ロイド! 起きてくれ!」
すると、「うぅん」と小さく声を上げ、ロイドはそっと瞼を開ける。
「……あ~……おはよ、……アレク」
「ああ、おはよう――じゃなくて! どうなったんだよ、あれから! 成功したのか!? 成功したんだよな!?」
身体のどこにも痛みはない。倦怠感もない。むしろ軽くなっている――となれば、成功したに違いない。
そう思いつつも、ロイドの言葉を聞くまで安心はできなくて。
俺はロイドの肩を更に揺すり、確信を得ようとした。
するとロイドはうつらうつらしながら、ようやく答えてくれる。
「……ん……成功したよ。……僕って……ほんと……天、才……」
「でかした! お前はほんとに凄い奴だ! まさかこんなに調子が良くなるなんて思ってもみなかったぞ!」
俺は興奮しながらロイドの頭をわしゃわしゃと撫でる。
けれどロイドはよほど疲れているのか、再び瞼を閉じてしまった。
「おい、ロイド? 大丈夫か?」
「ん……。ちょっと……眠いだけ……」
「そうか。そんなに大変だったんだな。本当に、お前にはなんて礼を言ったらいいのか」
「いいよ……別に。……それより……僕……今日…………一日………………寝る……から……」
ロイドはそれだけ言い残し、再び寝息を立て始める。
その寝顔からは少しも邪鬼を感じなくて、俺は意味もなく、ロイドの頭をもう一度撫でた。
「ありがとな、ロイド」
本当に、こいつには感謝してもしきれない。
気絶する瞬間は本当に死ぬのではと思うほどの痛みに襲われたが、こうして全て終わってみれば痛みどころか、かつてないほどの健康体になっているのだから。
「本当に……ありがとな」
俺の隣で死んだように眠るロイド。
その幼い寝顔を見下ろし、俺はこれからの未来に思いを馳せる。
これでリリアーナの役に立てるはずだ、と。
俺はラスボスになんて絶対になってやらないぞ、と。
「さて、と。じゃあまずは、ユリシーズに話をしにいかなきゃな」
(まぁ、間違いなく怒られるだろうけど……)
――俺はユリシーズに怒られる覚悟を決め、部屋へと向かった。
◇
けれど、俺の能天気な考えはあっという間に覆された。
ユリシーズが部屋に入れてくれないのだ。
話があると言っても、「僕は話すことはない」と拒絶される。
こんなことは初めてで、俺はどうしたらいいのかわからなくなった。
「ユリシーズ! お願いだ、入れてくれ!」
俺は扉の前で食い下がる。
けれど中から返ってくるのは、「何も聞きたくない」という冷たい声だけ。
でも、俺にはユリシーズがそんな態度を取る理由がどうしてもわからなかった。
「俺……お前に何かした?」
正直、何も身に覚えがない。
確かに深夜のやり取りはユリシーズの気持ちを汲むものではなかったかもしれないが、だからと言ってこんな態度を取る理由にはならないだろう。
(一度出直すか? でも、この様子じゃ出直したところで同じだろうな)
――仕方ない。
俺は諦めて、メモを残すことに決める。
別に、俺としては要件だけ伝えられればいい。
直接話した方が誠実だと思っただけで、向こうが拒否するなら仕方ないだろう。
俺は通りがかった使用人を呼び止め、紙とペンを持って来させる。
そこに『身体はロイドに治してもらった。もう心配はいらない』と書いて二つ折りにし、ドアの下から差し込んだ。
去り際、「紙に書いたから読んでくれ」と中に向かって言い残し――俺はその場を後にした。
21
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる