48 / 74
第2章 北の辺境――ノーザンバリー
31.特訓開始?(後編)
しおりを挟む「……は?」
(今、いったい何が起こった?)
あまりにも一瞬だった。コンマ数秒の間に……俺は、地面に倒されたのだ。
茫然と空を見上げる俺を、ロイドが満面の笑みで覗き込む。
「ふふっ。僕の勝ち」
「……お前、今……」
――何をした?
そう言いかけて、ズキンと痛んだ左足に、俺は悟った。怪我ではないが、この痛みは――と。
(ああ、そうか。俺は足を取られたのか)
驚きのあまり動けないでいる俺の元に、ユリシーズが駆け寄ってくる。
差し伸べられた手を借りて立ち上がった俺は、ロイドに向き直った。
「お前、ほんとに何でもできるんだな」
「でしょ? 僕って天才だから」
「ああ、驚いた。今の足払いももちろんだけど……俺の攻撃、まるで効いてなかったもんな。剣術にはそこそこ自信があったんだけど、完敗だ」
清々しいほどに俺の負け。ここまで実力差があると、悔しさすら感じない。
――が、ロイドは俺に気を遣ったのか、小さく首を振る。
「ううん、アレクはちゃんと強かったよ。身体強化してなかったら、初手で円の外側に飛ばされてたと思う。僕、剣術は素人だけど、ちゃんと練習を積み重ねてきたんだなっていうのが伝わってきた。正直、凄いなって思ったよ」
「……え?」
その言葉に、強い違和感を抱く俺。
「お前、剣術は素人なのか? 俺たちに剣術を教えてくれるんじゃないのかよ?」
困惑ぎみに尋ねると、ロイドは一瞬キョトンとして――ぷはっと噴き出した。
「あははははっ! 僕が君たちに剣術を? 無理に決まってるでしょ! 僕は神官だよ? 剣なんて普段握らないし!」
「はっ? えっ!? だってお前、さっきは俺の攻撃をあんなに――」
「そりゃあ僕は目がいいから、防ぐくらいならいくらでもできるよ。でもあくまで防御だけ。さっきだって僕、君に一回も攻撃しなかったでしょ?」
「――え? ……あっ」
言われてみれば確かに、こいつは一度も攻撃を仕掛けてこなかった。
けれどそれは、俺と実力差がありすぎて手加減されているのかと思っていた。
――でも、違ったのか……。――ん? いや、でも、待てよ……。
「おい。ならなんで手合わせしようなんて言ったんだよ。剣術教られないなら手合いの意味なかったろ」
俺がロイドをじっと見据えると、しらーっと明後日の方を向くロイド。
これは……つまり。
「お前……俺で遊んだな?」
「ええー? 何のことー?」
「誤魔化すな! 俺は本気で強くなりたくてお前に頼んでるんだぞ……!」
「それはちゃんとわかってるよ~」
「いいや、わかってない! 絶対にわかってない!」
訓練場の中を逃げまわるロイドを、俺は追いかける。
けれどロイドはすばしっこく、なかなか捕まってくれなかった。
――が、ひとしきり逃げ回って満足したのか、ロイドが急に立ち止まる。
と同時にくるりと俺の方を向いて、何かを思い出したような顔でこちらに駆けて来た。
そしてどういうわけか、ロイドは小さなその両手で、俺の右手を強く握ったのだ。
「――なっ、んだよ、急に」
ロイドの突然の奇行に、俺は咄嗟に手を振り払おうとする。
けれどロイドはそれを許さず、俺の知る限り最も真面目な顔で、俺を見上げた。
「やっぱり……気のせいじゃなかった」
そう呟いて、俺を見つめるロイドの瞳。
その眼差しはどうにも気味が悪くて、俺は目を逸らさずにいるのがやっとだった。
(急にどうしたんだ、こいつ……!?)
困惑する俺を、ロイドは更にじっと見つめる。
そして数秒の沈黙の後、ようやく口にした言葉は――。
「鉱山でも思ったけど、君の身体、なんか変だよ。魔力はあるのにちゃんと身体を巡ってない。三日も眠り続けてたのって、これが原因なんじゃない?」
――俺にとっては寝耳に水の、全く理解不能な内容だった。
31
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる