転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹の為にラスボスポジション返上します〜

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

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第2章 北の辺境――ノーザンバリー

31.特訓開始?(後編)

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「……は?」


(今、いったい何が起こった?)

 あまりにも一瞬だった。コンマ数秒の間に……俺は、地面に倒されたのだ。

 茫然と空を見上げる俺を、ロイドが満面の笑みで覗き込む。

「ふふっ。僕の勝ち」
「……お前、今……」

 ――何をした?
 そう言いかけて、ズキンと痛んだ左足に、俺は悟った。怪我ではないが、この痛みは――と。


(ああ、そうか。俺は足を取られたのか)


 驚きのあまり動けないでいる俺の元に、ユリシーズが駆け寄ってくる。
 差し伸べられた手を借りて立ち上がった俺は、ロイドに向き直った。

「お前、ほんとに何でもできるんだな」
「でしょ? 僕って天才だから」
「ああ、驚いた。今の足払いももちろんだけど……俺の攻撃、まるで効いてなかったもんな。剣術にはそこそこ自信があったんだけど、完敗だ」

 清々しいほどに俺の負け。ここまで実力差があると、悔しさすら感じない。
 ――が、ロイドは俺に気を遣ったのか、小さく首を振る。

「ううん、アレクはちゃんと強かったよ。身体強化してなかったら、初手で円の外側に飛ばされてたと思う。僕、剣術は素人だけど、ちゃんと練習を積み重ねてきたんだなっていうのが伝わってきた。正直、凄いなって思ったよ」
「……え?」

 その言葉に、強い違和感を抱く俺。

「お前、剣術は素人なのか? 俺たちに剣術を教えてくれるんじゃないのかよ?」

 困惑ぎみに尋ねると、ロイドは一瞬キョトンとして――ぷはっと噴き出した。

「あははははっ! 僕が君たちに剣術を? 無理に決まってるでしょ! 僕は神官だよ? 剣なんて普段握らないし!」
「はっ? えっ!? だってお前、さっきは俺の攻撃をあんなに――」
「そりゃあ僕は目がいいから、防ぐくらいならいくらでもできるよ。でもあくまで防御だけ。さっきだって僕、君に一回も攻撃しなかったでしょ?」
「――え? ……あっ」

 言われてみれば確かに、こいつは一度も攻撃を仕掛けてこなかった。
 けれどそれは、俺と実力差がありすぎて手加減されているのかと思っていた。

 ――でも、違ったのか……。――ん? いや、でも、待てよ……。


「おい。ならなんで手合わせしようなんて言ったんだよ。剣術教られないなら手合いの意味なかったろ」

 俺がロイドをじっと見据えると、しらーっと明後日の方を向くロイド。
 これは……つまり。

「お前……俺で遊んだな?」
「ええー? 何のことー?」
「誤魔化すな! 俺は本気で強くなりたくてお前に頼んでるんだぞ……!」
「それはちゃんとわかってるよ~」
「いいや、わかってない! 絶対にわかってない!」


 訓練場の中を逃げまわるロイドを、俺は追いかける。
 けれどロイドはすばしっこく、なかなか捕まってくれなかった。

 ――が、ひとしきり逃げ回って満足したのか、ロイドが急に立ち止まる。
 と同時にくるりと俺の方を向いて、何かを思い出したような顔でこちらに駆けて来た。

 そしてどういうわけか、ロイドは小さなその両手で、俺の右手を強く握ったのだ。
 
「――なっ、んだよ、急に」

 ロイドの突然の奇行に、俺は咄嗟に手を振り払おうとする。
 けれどロイドはそれを許さず、俺の知る限り最も真面目な顔で、俺を見上げた。

「やっぱり……気のせいじゃなかった」

 そう呟いて、俺を見つめるロイドの瞳。
 その眼差しはどうにも気味が悪くて、俺は目を逸らさずにいるのがやっとだった。

(急にどうしたんだ、こいつ……!?)

 困惑する俺を、ロイドは更にじっと見つめる。
 そして数秒の沈黙の後、ようやく口にした言葉は――。


「鉱山でも思ったけど、君の身体、なんか変だよ。魔力はあるのにちゃんと身体を巡ってない。三日も眠り続けてたのって、これが原因なんじゃない?」


 ――俺にとっては寝耳に水の、全く理解不能な内容だった。
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