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第2章 北の辺境――ノーザンバリー
28.三日後の朝(中編)
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――その後、俺はあれから何がどうなったのか説明を受けた。
その内容は主に以下のとおりだった。
一つ目は、坑道の瘴気は無事に浄化されたということ。
二つ目は、今俺たちが、ユリシーズの伯父であるノーザンバリー辺境伯の世話になっているということ。
そして、三つ目は――。
「――は? 今、何て?」
一つ目、二つ目の話はふんふんと聞いていた俺だったのだが、三つ目の話を聞かされた瞬間、俺は強いショックを受けた。
なんと、リリアーナとセシル、グレンの三人が、つい先ほど街を発ったというのだ。
行先は北の国境。本来の目的である、瘴気の浄化のためにである。
「嘘だろ? 冗談だよな? そんなまさか……リリアーナが俺を置いていくなんて……」
そんなことが有り得て堪るか。
リリアーナが俺を置いていくなんて……そんな馬鹿なことが……。
肩を震わせる俺を、宥めるようなユリシーズの声。
「違うんだよ、アレク。リリアーナは君が目覚めるまで待つって聞かなかったんだ。君が倒れた日の夜も、次の日も、リリアーナは君を一日中看病してた。少しは休まないとって言うセシルや僕の言葉も聞かず、ずっと君に付き添ってたんだ」
「……っ」
「でも、リリアーナにも疲れの色が見えていたし……正直、あのままじゃ共倒れになると思った。それにマリアは昨日のうちに国境の浄化の準備を全て整えていたから。聖下の指示通り、現地にいる魔法師とは別に、追加で三十人の人員をね。魔法師は皆忙しいから、計画は速やかに実行に移す必要がある。だから僕らは、リリアーナに瘴気の浄化を優先するようにお願いしたんだ。君と物理的に離した方がいいと思ったのもあって…………最初は嫌がってたけど、アレクは僕が見てるからって説得したら、最後はわかってくれたよ」
「……そう……だったのか」
そうとも知らず、俺は一瞬でもリリアーナを疑ってしまった。――最低だ。
俺は自己嫌悪に陥った。と同時に、リリアーナのことが心配で居ても立っても居られなくなった。
ストレスで過呼吸を起こし、坑道の瘴気の浄化――そして俺の看病までした上、今度は北の国境へ。
そんなハードスケジュールを、たった十五歳のリリアーナにやり切ることができるのだろうかと。身体を壊してしまうのではないか、と。
「なぁ、ユリシーズ。リリアーナは本当に大丈夫だと思うか? 地下の瘴気は凄く濃かったんだ。グレイウルフと戦った森なんかとは比べ物にならないくらい。あんな濃い瘴気を浄化して、すぐにまた国境の浄化だなんて……本当に、リリアーナにできると思うか?」
俺が尋ねると、「ああ、それはね……」と、ユリシーズは言いにくそうに口を開ける。
「実は、坑道の瘴気を浄化したのはリリアーナじゃなくて――」
ユリシーズがそう言いかけると同時に、窓側から突然聞こえてきたその声は――。
「実は僕なんだよね、瘴気を浄化したの」
――いつの間にやら部屋に入り込んでいた、ロイドのものだった。
「――っ!?」
ユリシーズと共に声のした方を振り向くと、さっきまで閉まっていたはずの窓が開け放たれ、その窓枠にロイドが堂々と腰かけている。
「ロイド! お前、いつの間に……! ってかここ二階だろ!? どうやって……」
俺が声を上げると、さも当然であるかのように微笑むロイド。
「え~、だって鍵空いてたし。僕にとっては一階も二階も関係ないし」
「関係ないってお前……。――いや、そんなことより、今のはどういうことだよ。坑道の瘴気、お前が浄化したっていうのは本当なのか?」
「うん、ほんとだよ」
ロイドは窓に腰かけたまま足をブラブラと揺らし――スタッと床に着地すると、窓を閉める。
「だって、聖女さまよく眠ってたし。起こしたら可哀そうだと思ったから」
そう言ってわざとらしく首を傾けるロイドの答えは、俺の聞きたい内容からは外れていて――。
ロイドに聞いても埒が明かないと思った俺は、ユリシーズの顔を見る。
するとユリシーズは難しい顔をして、小さく頷いた。
「彼の言っていることは本当だよ。僕はセシルから聞いたんだけど、坑道の瘴気は全て彼が浄化したんだ」
「いや、だって、おかしいだろそんなの! そんなことができるなら最初から――!」
そうだ。そんなことができるなら、最初からロイドが瘴気を浄化してくれていればよかったんだ。
そしたら俺たちが坑道の瘴気を浄化する話にはらなかったし、ユリシーズが怪我をすることも、リリアーナが怖い思いをすることもなった。
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