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第2章 北の辺境――ノーザンバリー
24.いざ、地下道へ(後編)
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「大丈夫だ、籠は落ちてない、使える……!」
俺は貨物用エレベーターの荷台の状態を確認し、声を上げた。
すると、水車の方からロイドもこちらに向かって叫ぶ。
「水路も水車も無事だよ! 繋ぎも大丈夫そう!」
「そうか! 良かった!」
もしかしたら、さっきの揺れで荷台が脱落している可能性もあった。
水車の方も、水路に亀裂が入り使えないことも有り得た。
だが、実際はどちらも無事。これなら地下に降りられる。
なお、貨物用エレベーターだからだろうか。エレベーター内側に操作盤はなく、操作はエレベーター外側にあるレバーで行うようだ。
レバーは自動車のシフトレバーのようになっていて、一階から地下五階まで切り替えられるようになっている。
「よし、俺はエレベーターに乗るから、ロイドはレバーを操作してほしい」
俺はロイドに指示をする。――が、ロイドは頷かない。
「え、何言ってるの? 僕も一緒に降りるに決まってるでしょ」
「いや、でもな、操作は外側からしかできないんだ。一人はここに残らないといけないだろ」
「えー、そんなのやだよ。僕も一緒に行く。そもそも、ろくに歩けもしない君が一人で降りたところで、魔物に食べられて死んじゃうだけだよ?」
ロイドは続ける。
「っていうかこのエレベーター、籠自体には屋根がないし、レバーを操作してからでも十分飛び乗れると思う」
「……!」
――確かに、その手があった!
俺はロイドの意見に賛同し、エレベーターに乗り込んだ。
「じゃあ動かすよー」
その軽い一声を合図に、ロイドは外側でレバーを操作する。
すると二秒ほど遅れて、ガコンッという音と大きな揺れと共に、エレベーターが動き出した。
それとほぼ同時に、ロイドが籠に飛び込んでくる。――そのフォームと着地は、うっかり見惚れそうになるほど綺麗だった。
「お前……運動神経いいんだな。神官は皆そうなのか?」
思わず尋ねると、「まさか」とケラケラ笑い始めるロイド。
「そんなわけないでしょ、騎士じゃあるまいし。マリアなんて二日に一度は何もないところでつまづいてるよ。僕はただ、魔物と戦うために身体を鍛えてるってだけ」
「……本当に好きなんだな、魔物退治」
「うん。そのためだけに、僕は神官になったから」
「…………」
そう言ったロイドの横顔はとても子供には見えなくて、俺はそれ以上何も言えなくなった。
――にしても、下に降りれば降りるほど、視界が悪くなっていく。
灯りが少ないのもあるが、この暗さは瘴気が濃いせいだろう。
俺が不意にロイドの様子を伺うと、ロイドは嬉々とした表情を浮かべていた。
瞳孔は猫の目のように開き、唇は夜空に浮かぶ三日月のごとく弧を描く。
まるで夜闇の中、獲物に狙いを定めるフクロウのように――。
(こいつには……いったい何が見えているんだ……?)
俺はゴクリと喉を鳴らす。
――その数秒後、俺たちは無事、地下五階へと降り立った。
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