39 / 74
第2章 北の辺境――ノーザンバリー
22.リリアーナのトラウマ(後編)
しおりを挟む「その魔物って……蛇、だよな……?」
「……? そうだけど?」
そうだ。地下にいるのは、俺が戦ったのより何倍もでかい大蛇。
妹のゲームに付き合って一緒に倒した、最初のボス。
とはいえ、難易度的には難しくなかった。セシルとグレンなら、問題なく倒せるレベルの魔物。
(――なのに、どうしてこんなに胸騒ぎがするんだ……?)
俺は、何か重要なことを見落としている気がする。
だがそれは、俺の前世の記憶に関わるものではない。
この胸騒ぎは……俺ではなく……きっと、アレクのものだ。
「アレク、どうしたの? 顔色悪いよ?」
不思議そうに俺を見つめるロイド。
俺はそんなロイドを置いて、走り出した。
「先行く」
「――えっ? なんで!?」
驚くロイドを残し、俺は一気に結界の壁を抜ける。
突然戻ってきた俺たちに驚くマリアに、俺は詰め寄った。
「今すぐユリシーズの傷を治してくれ!」と。
するとマリアは更に驚いた顔をしたが、すぐにユリシーズの治療に取り掛かってくれた。
リリアーナの聖魔法のようにはいかないが、少しずつ傷跡が塞がっていく。
そして傷がすっかり塞がった頃、ユリシーズは目を覚ました。
俺は、ぼんやりとした様子のユリシーズに、それでも強く問いかける。
「ユリシーズ、お前、何か知らないか……!? 今地下に蛇の魔物がいて、セシルとグレンなら十分倒せるってわかってるのに、どうしてかすごく嫌な予感がするんだ。でも、自分じゃ理由がわからない……!」
シナリオ通りなら何も問題はない。そのはずなのに――。
「何でもいいんだ! もし、何か思い当たることがあったら……!」
この胸騒ぎはアレクのもの。でも、その理由がわからない。
思い出すきっかけがほしい。どんなことでもいいから――。
俺はもう一度同じ内容を繰り返す。
すると――ユリシーズは何かを思い出したように、瞳を大きく見開いた。
「今……蛇って、言った……?」
「ああ、そうだ! 蛇の魔物だ!」
俺は頷く。
すると突然ユリシーズは身体を起こし、俺に向かって怒鳴りつけた。
「リリアーナは蛇が駄目なんだ! 本当に忘れたの!?」
「……っ!?」
「君が教えてくれたんだ! リリアーナは昔蛇に噛まれて、それ以来見るだけでも駄目だって! 発作を起こして呼吸困難になるって、君が……!」
「――ッ」
――ああ、そうだった。
瞬間、俺の脳裏に走馬灯のように映し出される少年時代の記憶。
父親の狩りに付いていった先の森で、リリアーナと二人で遊んでいたときのこと。木の上から蛇が落ちてきて、まだ四歳だったリリアーナの腕に噛みついた。
幸い毒のない蛇で大事には至らなかったけれど、それ以来リリアーナは蛇だけは受け付けなくなったのだ。
家族でどこかの貴族の屋敷を訪れたときは、温室で蛇を飼っていて、それを目にしたリリアーナは発作を起こして意識を失った。
生きている蛇だけじゃない。剥製や蛇皮の製品など、蛇だとわかったらそれだけで駄目。
それ以来アレクは、リリアーナに絶対に蛇を見せないように細心の注意を払ってきた。
我が家の屋敷の庭にハーブが多く植わっているのも、蛇避けのため。
――こんなに大事なことを、どうして俺は忘れてしまっていたのだろう。
「……俺……今すぐ戻らないと」
俺の中のアレクの記憶が、今すぐ戻れと言っている。
消えてしまったアレクの心が……リリアーナを守れと命じている。
「……リリアーナを……守らないと……」
――だが、どうやって?
道は瓦礫で塞がれてしまった。つまり密室状態だ。
そんな場所に、どうやって入ればいい……?
俺は必死に頭を巡らせる。
グレンに叩き込まれた坑道の地図を……隅から隅まで思い出す。
そして、気が付いた。
(荷物運搬用のエレベーター……あれなら、地下に繋がってる……!)
――俺はユリシーズに踵を返し、再び結界をくぐる。
そして、リリアーナのいるであろう地下に向かうため、再び走り出した。
33
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる