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第2章 北の辺境――ノーザンバリー

22.リリアーナのトラウマ(後編)

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「その魔物って……蛇、だよな……?」
「……? そうだけど?」


 そうだ。地下にいるのは、俺が戦ったのより何倍もでかい大蛇。
 妹のゲームに付き合って一緒に倒した、最初のボス。

 とはいえ、難易度的には難しくなかった。セシルとグレンなら、問題なく倒せるレベルの魔物。


(――なのに、どうしてこんなに胸騒ぎがするんだ……?)


 俺は、何か重要なことを見落としている気がする。

 だがそれは、俺の前世の記憶に関わるものではない。
 この胸騒ぎは……俺ではなく……きっと、アレクのものだ。


「アレク、どうしたの? 顔色悪いよ?」

 不思議そうに俺を見つめるロイド。
 俺はそんなロイドを置いて、走り出した。

「先行く」
「――えっ? なんで!?」


 驚くロイドを残し、俺は一気に結界の壁を抜ける。


 突然戻ってきた俺たちに驚くマリアに、俺は詰め寄った。
「今すぐユリシーズの傷を治してくれ!」と。

 するとマリアは更に驚いた顔をしたが、すぐにユリシーズの治療に取り掛かってくれた。
 リリアーナの聖魔法のようにはいかないが、少しずつ傷跡が塞がっていく。

 そして傷がすっかり塞がった頃、ユリシーズは目を覚ました。

 俺は、ぼんやりとした様子のユリシーズに、それでも強く問いかける。

「ユリシーズ、お前、何か知らないか……!? 今地下に蛇の魔物がいて、セシルとグレンなら十分倒せるってわかってるのに、どうしてかすごく嫌な予感がするんだ。でも、自分じゃ理由がわからない……!」

 シナリオ通りなら何も問題はない。そのはずなのに――。

「何でもいいんだ! もし、何か思い当たることがあったら……!」

 この胸騒ぎはアレクのもの。でも、その理由がわからない。
 思い出すきっかけがほしい。どんなことでもいいから――。

 俺はもう一度同じ内容を繰り返す。

 すると――ユリシーズは何かを思い出したように、瞳を大きく見開いた。


「今……蛇って、言った……?」

「ああ、そうだ! 蛇の魔物だ!」

 俺は頷く。
 すると突然ユリシーズは身体を起こし、俺に向かって怒鳴りつけた。

「リリアーナは蛇が駄目なんだ! 本当に忘れたの!?」
「……っ!?」
「君が教えてくれたんだ! リリアーナは昔蛇に噛まれて、それ以来見るだけでも駄目だって! 発作を起こして呼吸困難になるって、君が……!」
「――ッ」


 ――ああ、そうだった。


 瞬間、俺の脳裏に走馬灯のように映し出される少年時代の記憶。

 父親の狩りに付いていった先の森で、リリアーナと二人で遊んでいたときのこと。木の上から蛇が落ちてきて、まだ四歳だったリリアーナの腕に噛みついた。

 幸い毒のない蛇で大事には至らなかったけれど、それ以来リリアーナは蛇だけは受け付けなくなったのだ。

 家族でどこかの貴族の屋敷を訪れたときは、温室で蛇を飼っていて、それを目にしたリリアーナは発作を起こして意識を失った。
 生きている蛇だけじゃない。剥製や蛇皮の製品など、蛇だとわかったらそれだけで駄目。

 それ以来アレクは、リリアーナに絶対に蛇を見せないように細心の注意を払ってきた。
 我が家の屋敷の庭にハーブが多く植わっているのも、蛇避けのため。


 ――こんなに大事なことを、どうして俺は忘れてしまっていたのだろう。


「……俺……今すぐ戻らないと」


 俺の中のアレクの記憶が、今すぐ戻れと言っている。
 消えてしまったアレクの心が……リリアーナを守れと命じている。


「……リリアーナを……守らないと……」


 ――だが、どうやって?
 道は瓦礫で塞がれてしまった。つまり密室状態だ。

 そんな場所に、どうやって入ればいい……?


 俺は必死に頭を巡らせる。
 グレンに叩き込まれた坑道の地図を……隅から隅まで思い出す。

 そして、気が付いた。


(荷物運搬用のエレベーター……あれなら、地下に繋がってる……!)


 ――俺はユリシーズに踵を返し、再び結界をくぐる。
 そして、リリアーナのいるであろう地下に向かうため、再び走り出した。
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