転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹の為にラスボスポジション返上します〜

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

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第2章 北の辺境――ノーザンバリー

2.愛と未練の境界線(前編)

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「くっそー。やっぱり納得いかない。あの二人、いつの間にあんなに仲良くなったんだ? ユリシーズ、お前何か知らないか?」
「いや、僕は何も。それよりアレク、尾行なんてよくないよ。もし気付かれたら……」
「じゃあお前は帰れよ。俺は一人で続けるから」
「……アレク」

 俺は二人を尾行していた。
 行ってこいと送り出したものの、どうしても納得できなかったからだ。

 一定の距離を保ちつつ、二人の様子を伺う。

 二人は手を繋いでしばらく散歩したあと、本屋で本を物色――その最中、リリアーナでは届かない上段の本をセシルが取ってあげるという定番イベントを起こした後――露店で飲み物をテイクアウトし、ベンチに座って楽しそうにおしゃべりをしていた。

 それは誰がどう見てもカップルにしか見えない距離感で。
 リリアーナはずっと幸せそうで。セシルもリリアーナをとても大切にしていて。

 見れば見るほど、泣きたい気分になってくる。

(なんだこれ、つらい……)

 いったい何が起きてこうなったのかはわからないが、リリアーナはセシルに恋している。
 それだけは、疑いようのない事実。


「アレク、もう十分だろう? 尾行は終わりにしよう」
「…………」
「大丈夫だよ。セシルは紳士だ。君が心配してるようなことには絶対にならない。わかってるはずだ」
「…………」

 わかってる。セシルがいい奴だってことは、言われなくてもわかっている。
 出会って一週間とはいえ、朝から晩まで一緒に過ごした仲間なのだ。

 ――セシルは強い。
 身体がそれほど大きくなくても、剣の腕が無くても、それを補うに余りある魔法の才能と、何より強いメンタルがある。
 逆境から逃げない心。誰かを守りたいという強い想い。
 王太子という立場なのに、少しも偉ぶらず、他人を見下さず、相手が誰であろうと笑顔を絶やさない。
 
 そういう強さが、セシルにはある。

(わかってるんだ、俺だって)

 俺はセシルが魔物と戦うところを見た。
 セシルは自分の身が危なくなろうと少しも引かず、リリアーナを最後まで守ろうとした。
 だから、セシルがリリアーナを大切にしてくれるだろうってことは、俺が一番わかってる。

 でもだからこそ嫌なんだ。
 俺ではセシルには敵わないから。セシルの足元にも及ばないから。
 リリアーナが俺の手を離れていってしまうと思うと、寂しくてたまらない。


「……アレク? まさか、泣いてるの……?」


 ああ――そういえば前世でもそうだった。

 四つ歳の離れた妹。
 生まれたばかりのときは得体が知れなくて怖かったけど、歩くようになったらどこにでもついてきて。「にー」とか言って俺を呼ぶとことか、めちゃくちゃ可愛くて。
 成長しても何だかんだ慕ってくれて、俺が彼女を家に連れてくると品定めするような目で見てきて……そういうところも可愛くて。

「お前生意気だぞ」って言ったら、「おにぃこそ、変な女と結婚しないでよね。私のおねーちゃんになる人なんだから」なんて言って……。
 いや、流石に美化しすぎたか。実際は、「あの女ヤッバ。猫被りすぎ」とかだったかもしれない。

 とにかく、妹が家に彼氏を連れてきたときはショックで失神しかけた。
 リビングでくつろいでる二人の様子を見ようと一階に降りたら、「部屋から出てこないで」と冷たく言われ……。いや、だったら家に連れてくんなよと言い返して……。
 そしたら、妹の彼氏がこう言ったんだ。

「お兄さんもこっちにきて話しませんか? 俺、野球部なんです。甲子園の話とか、良かったら聞かせてください」って。

 ――そう。いい奴だったんだよ。
 今のセシルみたいに、すごくいい奴だったんだ。こいつならいいかなって、仕方ないかって、そう思わせるような男だった。

 俺が事故で死んだ日も、妹はデートに出掛けて行って。
 そしたら、妹がスマホを忘れていったことに気付いて、急いでそれを届けに走って。
 横断歩道を渡りかけている妹を呼んだら、妹は立ち止まって――そしたら――そこにトラックが……。
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