転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹の為にラスボスポジション返上します〜

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

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第1章 シナリオの幕開け

14.グレイ・ウルフの群れ(後編)

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 ◇


 俺たちは森の中を、東に向かって全速力で駆け抜ける。
 この森は針葉樹林だ。木の生え方はまばらで、太陽の日差しは十分すぎるほど。
 つまり、比較的見通しがいいということだ。二人を見つけるのはそれほど難しくないだろう。

 ――と最初は思っていたのだが……。

 五分ほど走ったところで、現実は甘くないことに気付く。
 先に進むほど、何やら視界が暗くなってきたのだ。


「ユリシーズ……この黒い霧って……」

 隣を走るユリシーズに同意を求めると、彼は「うん」と頷いた。

「瘴気だろうね。段々濃くなってる。お互いの姿を見失わないようにしないと」
「そうか。これが瘴気……。なんていうか、やっぱりちょっと不気味だな。吸っても大丈夫なんだっけ」
「うん、僕たちは普段からリル湖の水を接種しているからね。運河周辺に生息する動物たちが魔物化しにくいのも同じ理由だ。――でも、四大都市の外側に住む人たちはそうじゃない。商隊の人たちは都市を行き来しているから大丈夫だと思うけど、それだって確証はない」

 ユリシーズの顔が暗くなる。
 きっとユリシーズは、瘴気を吸った人間がどうなるのかを知っているのだろう。

「あの、さ。ユリシーズ……」

 ――それが気になった俺は、ユリシーズに尋ねようと口を開きかける。

 が、そのときだった。
 突然前方に何かの気配が現れ、俺たちは足を止める。
 そして目を凝らすと、そこにはグレイウルフがいた。

 先ほどグレンと対峙していた奴か、それとも別の個体か……。
 わからないけれど、とにかく、グレイウルフは魔物の象徴ともいえる赤い瞳で、俺たちを強く威嚇している。


「――ユリシーズ……二頭いるぞ」
「ああ。わかってる」

 さっきグレンが戦っていた数に比べれば圧倒的に少ないが――。
 と思いながら周囲の様子を確認すると、前だけではない。なんと後ろにもいるではないか。それも、三頭も……。

(え? じゃあ合わせて五頭ってことか? いやいや……急に五頭とか無理だろ)

 言っておくが、俺たちは正真正銘の戦闘初心者だ。ここまでだって特に戦闘なしで来てしまったし、ウサギ一匹殺したことはない。

 それなのに、急に狼を相手にしろと? それも魔物化した?

(流石に荷が重すぎる……)


「……おい、どうするユリシーズ。俺、狼に勝てる自信、正直ないんだけど」

 何か作戦はあるのか――俺はそう言いかけた。
 けれどそれより先に、ユリシーズが俺の顔を凝視して――。

「構えて、アレク」
「……えっ?」
「剣を構えるんだ。――忘れたの? 君の剣は聖剣・・だ」
「――あ」

 瞬間、俺はようやく思い出す。
 そうだ、俺の腰にぶら下がるこれは、大神官サミュエルにたまわった聖剣だった。


 ――それは王都を出発する前日のこと。
 俺はサミュエルに呼び出され、一振りの剣を渡された。
 そしてこんなことを言われた。

「アレク、お前も知っているだろう。魔物を倒すには魔力が不可欠だ。普通の剣ではかすり傷を負わせるのがやっと。つまり、魔法の才のないお前には魔物を倒すことはできない。が、流石にそれでは不憫ふびんだからな。俺の剣を貸してやる。――何、心配するな。属性魔法の使えないお前なら、この剣に込められた俺の光魔力に拒否反応を起こすことはないだろう。まぁ、とは言えこれが使えるのは、溜めた魔力が切れるまでの間だけだがな」――と。


 それが俺が今持っている聖剣、”エックス”。サミュエルが二十四番目に作った聖剣――エックスだ。

 ――正直俺は今の今まで、(サミュエルのあまりのネーミングセンスの悪さに)これが聖剣であることをすっかり忘れていた。
 が、これは確かに聖剣であるはずなのだ。

 相手が魔物であれば、剣先が触れるだけで倒してしまえるという、サミュエルの魔力がたっぷり注ぎ込まれたチートなつるぎ

 ユリシーズは、それを使えと言っている。


「そうだったな、ユリシーズ。これは聖剣。つまり、魔物を倒すのは俺の役目だ」
「うん。……ごめんね、アレク。本当はあまり使わせたくないんだけど、実は僕、攻撃魔法のコントロールには自信がなくて……。その代わり防御は任せてほしい。君に傷一つつけさせやしないから」
「ああ、頼りにしてる、ユリシーズ」


 こうして俺は覚悟を決め、聖剣の力とユリシーズの防御を頼りに、グレイウルフに突っ込んでいった。

 戦いは混戦を極めた。
 グレイウルフはとても素速い上に、視界はあまりに不明瞭で、なかなか攻撃を当てることができなかったからだ。

 それでも俺たちは、十五分かけてなんとか全てを倒しきり――さらに瘴気の濃い方角――リリアーナとセシルのもとへ向かったのだった。
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