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第1章 シナリオの幕開け

13.グレイ・ウルフの群れ(前編)

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 ”魔物が出た”――その言葉に、俺の頭は真っ白になる。

「――は? 魔物? そんな……だってここはまだ……」
「国境じゃないって? でも間違いないよ。僕もこの目で見たから」
「――ッ」
「僕、前に話したよね? 瘴気は聖下の加護で浄化されてるって。確かにこの辺りの川は運河に繋がってるけど、その水のほとんどは北の山脈から降りてきたものだんだ。つまり、リル湖の水はほとんど含まれていない。聖下の加護が直接及んでいないんだよ。普段は地方神官が浄化してくれているけど、今はその手も足りてない。いつ魔物が出てもおかしくない状況なんだ」
「ってことは……ほんとに魔物が出たってことなのか? しかも今、三人が戦ってるって?」
「だからそう言ってるだろ。しかも出たのはグレイウルフだ。グレンが言うには、元はハイイロオオカミだろうって。数は十五頭ほど。商隊に怪我人も出てる」
「――っ」

 ――グレイウルフとは、瘴気に当てられ魔物と化したオオカミの通称だ。

 尚ハイイロオオカミとは、寒冷地の森林地帯や山岳地帯に生息している狼で、体長は一メートル五十センチほど。
 狼の中では大人しい部類なのだが、瘴気を吸って凶暴化した……ということか。


(なんてことだ。俺が気絶している間に、そんなことになっていたなんて)

 俺が茫然としていると、ユリシーズに肩を叩かれる。

「アレク、行くよ! 僕たちも戦わなきゃ」
「あ……ああ!」

 とにかく、最善を尽くそう――。
 
 俺は覚悟を決め、ユリシーズと共に先頭の馬車へと急いだ。


 ◇


 現場に駆け付けると、そこには数名の負傷者とその手当をする隊員たち――そして、グレイウルフと戦うグレンがいた。
 グレンは商隊を庇うように、こちらに背を向けた形で狼の群れと対峙している。

 グレンの周りには既に十頭以上の狼の死骸があった。死骸の四肢の切断面が焼け焦げているのを見るに、倒したのはグレンで間違いない。

 グレンの構える剣の色が赤く染まり、その周りの空気が蜃気楼のようにゆらゆらと揺れている。
 あれはかなりの高温だろう。


「グレン! 状況は!?」
「リリアーナとセシルはどこに……!?」

 俺たちがグレンの背中に向けて叫ぶと、グレンは「遅い」と言いたげに舌打ちした。

「二人は森だ! 瘴気を浄化すると言って森の奥へ入っていった! 二分前のことだ! 早く二人を追え!」
「――森!? 森って……周り全部森だぞ! 方角は!?」
「東だ! リリアーナは東に強い瘴気を感じると言っていた! ――が、よく聞け! 殿下は剣の腕はからっきしなんだ! 接近戦になれば勝ち目はない! 俺が行くまでお前たちがフォローしろ!」

 グレンの罵声にも近い声に、俺とユリシーズは頷き合う。

「わかった、任せろ!」
「グレンも、気をつけて……!」


 こうして俺たちはグレンを残し、森の奥へと駆け出した。

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