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第1章 シナリオの幕開け
9.大神官サミュエル(前編)
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俺たちが謁見室に入ると、そこには大神官サミュエルが待ち受けていた。
だだっ広い部屋の中央にあるテーブル席の一番上座――お誕生日席に座し、肘置きに頬杖をついて俺たちを目で追うその表情は、誰が見ても不機嫌そのものだった。
無表情の中に潜んだ苛立ちが、全身からほとばしっていた。
(……しまった。まさか聖下が俺たちより早く来てるとは)
サミュエルの睨むような視線に、全身から血の気が引く。
きっとかなり待たせてしまったのだろう。
サミュエルの後ろに待機するルーファスの顔は怒りのあまり引きつっているし、ユリシーズはそんなピリついた空気が居たたまれない様子で、下座の席で感情を殺した目をしていた。
(これはマズい。大神官様を怒らせるとか、俺の人生終わったのでは……?)
グレンには目をつけられるし、サミュエルからも悪い印象を持たれては立つ瀬がない。
俺は今すぐこの場を引き返してしまいたくなる。が、実際はそんな真似ができるはずもなく――。
――太陽の光を閉じ込めたような色の長い髪と、黄金色に輝く瞳を持った大神官サミュエル。男とも女とも思える彫刻のような整った顔立ち。
けれど体つきはかなりしっかりしていて、まるで美を司る男神のよう。
そんな美しい男の怒りの笑みといったら、恐ろしいことこの上ない。
クール系美人は人に冷たい印象を与えるというのを、もろに体現していると思う。
俺は絶望しながらも、そんなことを考える。
――だがセシルはそんなピリついた空気をもろともせず、困ったように微笑んだ。
「あまり怒らないでよ、サミュエル。皆びっくりしてるじゃないか。遅れたのは悪かったけど、君は仮にも神官だ。もっと心を広く持ったらどうだい?」
「――ハッ。仮にも、だと? 俺が誰だか忘れたか? しばらく会わないうちに礼儀を忘れたようだな。ふてぶてしいところがあの男にそっくりだ」
「僕が父上に? 面白いことを言うね。君の方こそ耄碌したんじゃないか? そろそろその席を次代に明け渡したらどうだい?」
「……本当に口の減らないガキだ」
――そしてどういうわけか、バチバチと火花を散らせる二人。
サミュエルは明らかに喧嘩腰だし、セシルは穏やかな言葉の裏に不満を募らせているように見える。
(サミュエルの怒りの原因が俺じゃないことはわかったが……この二人……どういう関係だ?)
もしかしなくても二人は仲が悪いのだろうか。
後でユリシーズに聞いてみよう。
そんなこんなで、ようやく俺たちは席につくことを許された。
サミュエルの次の上座にセシルが座り、その反対側にリリアーナ、俺、ユリシーズの順だ。
なおグレンはセシルの後方で立って控えている。
話を切り出したのは、当然サミュエルだった。
「今日この場に集まってもらったのは外でもない、お前たちに北の辺境で発生した瘴気の浄化と魔物の討伐をしてもらうためだ」
サミュエルは椅子に背を深くもたれながら、憮然とした様子で以下のことを説明した。
まず、今回発生した瘴気が想定より濃く広範囲だったため、魔物を倒す魔法師や魔剣士に負傷者が多数出ていること。当然浄化も間に合わず、このままでは収束は望めないこと。そのため一刻も早く現地に向かってもらいたいこと。
また、この一年の間の瘴気の発生件数は例年の十倍にも及んでおり、地方の神官だけでは浄化が間に合わず、王都の神官が出払ってしまっていること。
そして神官の不足のために、リル湖に加護を付与するサミュエルの負担が増えているということだった。
だだっ広い部屋の中央にあるテーブル席の一番上座――お誕生日席に座し、肘置きに頬杖をついて俺たちを目で追うその表情は、誰が見ても不機嫌そのものだった。
無表情の中に潜んだ苛立ちが、全身からほとばしっていた。
(……しまった。まさか聖下が俺たちより早く来てるとは)
サミュエルの睨むような視線に、全身から血の気が引く。
きっとかなり待たせてしまったのだろう。
サミュエルの後ろに待機するルーファスの顔は怒りのあまり引きつっているし、ユリシーズはそんなピリついた空気が居たたまれない様子で、下座の席で感情を殺した目をしていた。
(これはマズい。大神官様を怒らせるとか、俺の人生終わったのでは……?)
グレンには目をつけられるし、サミュエルからも悪い印象を持たれては立つ瀬がない。
俺は今すぐこの場を引き返してしまいたくなる。が、実際はそんな真似ができるはずもなく――。
――太陽の光を閉じ込めたような色の長い髪と、黄金色に輝く瞳を持った大神官サミュエル。男とも女とも思える彫刻のような整った顔立ち。
けれど体つきはかなりしっかりしていて、まるで美を司る男神のよう。
そんな美しい男の怒りの笑みといったら、恐ろしいことこの上ない。
クール系美人は人に冷たい印象を与えるというのを、もろに体現していると思う。
俺は絶望しながらも、そんなことを考える。
――だがセシルはそんなピリついた空気をもろともせず、困ったように微笑んだ。
「あまり怒らないでよ、サミュエル。皆びっくりしてるじゃないか。遅れたのは悪かったけど、君は仮にも神官だ。もっと心を広く持ったらどうだい?」
「――ハッ。仮にも、だと? 俺が誰だか忘れたか? しばらく会わないうちに礼儀を忘れたようだな。ふてぶてしいところがあの男にそっくりだ」
「僕が父上に? 面白いことを言うね。君の方こそ耄碌したんじゃないか? そろそろその席を次代に明け渡したらどうだい?」
「……本当に口の減らないガキだ」
――そしてどういうわけか、バチバチと火花を散らせる二人。
サミュエルは明らかに喧嘩腰だし、セシルは穏やかな言葉の裏に不満を募らせているように見える。
(サミュエルの怒りの原因が俺じゃないことはわかったが……この二人……どういう関係だ?)
もしかしなくても二人は仲が悪いのだろうか。
後でユリシーズに聞いてみよう。
そんなこんなで、ようやく俺たちは席につくことを許された。
サミュエルの次の上座にセシルが座り、その反対側にリリアーナ、俺、ユリシーズの順だ。
なおグレンはセシルの後方で立って控えている。
話を切り出したのは、当然サミュエルだった。
「今日この場に集まってもらったのは外でもない、お前たちに北の辺境で発生した瘴気の浄化と魔物の討伐をしてもらうためだ」
サミュエルは椅子に背を深くもたれながら、憮然とした様子で以下のことを説明した。
まず、今回発生した瘴気が想定より濃く広範囲だったため、魔物を倒す魔法師や魔剣士に負傷者が多数出ていること。当然浄化も間に合わず、このままでは収束は望めないこと。そのため一刻も早く現地に向かってもらいたいこと。
また、この一年の間の瘴気の発生件数は例年の十倍にも及んでおり、地方の神官だけでは浄化が間に合わず、王都の神官が出払ってしまっていること。
そして神官の不足のために、リル湖に加護を付与するサミュエルの負担が増えているということだった。
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