10 / 74
第1章 シナリオの幕開け
9.大神官サミュエル(前編)
しおりを挟む
俺たちが謁見室に入ると、そこには大神官サミュエルが待ち受けていた。
だだっ広い部屋の中央にあるテーブル席の一番上座――お誕生日席に座し、肘置きに頬杖をついて俺たちを目で追うその表情は、誰が見ても不機嫌そのものだった。
無表情の中に潜んだ苛立ちが、全身からほとばしっていた。
(……しまった。まさか聖下が俺たちより早く来てるとは)
サミュエルの睨むような視線に、全身から血の気が引く。
きっとかなり待たせてしまったのだろう。
サミュエルの後ろに待機するルーファスの顔は怒りのあまり引きつっているし、ユリシーズはそんなピリついた空気が居たたまれない様子で、下座の席で感情を殺した目をしていた。
(これはマズい。大神官様を怒らせるとか、俺の人生終わったのでは……?)
グレンには目をつけられるし、サミュエルからも悪い印象を持たれては立つ瀬がない。
俺は今すぐこの場を引き返してしまいたくなる。が、実際はそんな真似ができるはずもなく――。
――太陽の光を閉じ込めたような色の長い髪と、黄金色に輝く瞳を持った大神官サミュエル。男とも女とも思える彫刻のような整った顔立ち。
けれど体つきはかなりしっかりしていて、まるで美を司る男神のよう。
そんな美しい男の怒りの笑みといったら、恐ろしいことこの上ない。
クール系美人は人に冷たい印象を与えるというのを、もろに体現していると思う。
俺は絶望しながらも、そんなことを考える。
――だがセシルはそんなピリついた空気をもろともせず、困ったように微笑んだ。
「あまり怒らないでよ、サミュエル。皆びっくりしてるじゃないか。遅れたのは悪かったけど、君は仮にも神官だ。もっと心を広く持ったらどうだい?」
「――ハッ。仮にも、だと? 俺が誰だか忘れたか? しばらく会わないうちに礼儀を忘れたようだな。ふてぶてしいところがあの男にそっくりだ」
「僕が父上に? 面白いことを言うね。君の方こそ耄碌したんじゃないか? そろそろその席を次代に明け渡したらどうだい?」
「……本当に口の減らないガキだ」
――そしてどういうわけか、バチバチと火花を散らせる二人。
サミュエルは明らかに喧嘩腰だし、セシルは穏やかな言葉の裏に不満を募らせているように見える。
(サミュエルの怒りの原因が俺じゃないことはわかったが……この二人……どういう関係だ?)
もしかしなくても二人は仲が悪いのだろうか。
後でユリシーズに聞いてみよう。
そんなこんなで、ようやく俺たちは席につくことを許された。
サミュエルの次の上座にセシルが座り、その反対側にリリアーナ、俺、ユリシーズの順だ。
なおグレンはセシルの後方で立って控えている。
話を切り出したのは、当然サミュエルだった。
「今日この場に集まってもらったのは外でもない、お前たちに北の辺境で発生した瘴気の浄化と魔物の討伐をしてもらうためだ」
サミュエルは椅子に背を深くもたれながら、憮然とした様子で以下のことを説明した。
まず、今回発生した瘴気が想定より濃く広範囲だったため、魔物を倒す魔法師や魔剣士に負傷者が多数出ていること。当然浄化も間に合わず、このままでは収束は望めないこと。そのため一刻も早く現地に向かってもらいたいこと。
また、この一年の間の瘴気の発生件数は例年の十倍にも及んでおり、地方の神官だけでは浄化が間に合わず、王都の神官が出払ってしまっていること。
そして神官の不足のために、リル湖に加護を付与するサミュエルの負担が増えているということだった。
だだっ広い部屋の中央にあるテーブル席の一番上座――お誕生日席に座し、肘置きに頬杖をついて俺たちを目で追うその表情は、誰が見ても不機嫌そのものだった。
無表情の中に潜んだ苛立ちが、全身からほとばしっていた。
(……しまった。まさか聖下が俺たちより早く来てるとは)
サミュエルの睨むような視線に、全身から血の気が引く。
きっとかなり待たせてしまったのだろう。
サミュエルの後ろに待機するルーファスの顔は怒りのあまり引きつっているし、ユリシーズはそんなピリついた空気が居たたまれない様子で、下座の席で感情を殺した目をしていた。
(これはマズい。大神官様を怒らせるとか、俺の人生終わったのでは……?)
グレンには目をつけられるし、サミュエルからも悪い印象を持たれては立つ瀬がない。
俺は今すぐこの場を引き返してしまいたくなる。が、実際はそんな真似ができるはずもなく――。
――太陽の光を閉じ込めたような色の長い髪と、黄金色に輝く瞳を持った大神官サミュエル。男とも女とも思える彫刻のような整った顔立ち。
けれど体つきはかなりしっかりしていて、まるで美を司る男神のよう。
そんな美しい男の怒りの笑みといったら、恐ろしいことこの上ない。
クール系美人は人に冷たい印象を与えるというのを、もろに体現していると思う。
俺は絶望しながらも、そんなことを考える。
――だがセシルはそんなピリついた空気をもろともせず、困ったように微笑んだ。
「あまり怒らないでよ、サミュエル。皆びっくりしてるじゃないか。遅れたのは悪かったけど、君は仮にも神官だ。もっと心を広く持ったらどうだい?」
「――ハッ。仮にも、だと? 俺が誰だか忘れたか? しばらく会わないうちに礼儀を忘れたようだな。ふてぶてしいところがあの男にそっくりだ」
「僕が父上に? 面白いことを言うね。君の方こそ耄碌したんじゃないか? そろそろその席を次代に明け渡したらどうだい?」
「……本当に口の減らないガキだ」
――そしてどういうわけか、バチバチと火花を散らせる二人。
サミュエルは明らかに喧嘩腰だし、セシルは穏やかな言葉の裏に不満を募らせているように見える。
(サミュエルの怒りの原因が俺じゃないことはわかったが……この二人……どういう関係だ?)
もしかしなくても二人は仲が悪いのだろうか。
後でユリシーズに聞いてみよう。
そんなこんなで、ようやく俺たちは席につくことを許された。
サミュエルの次の上座にセシルが座り、その反対側にリリアーナ、俺、ユリシーズの順だ。
なおグレンはセシルの後方で立って控えている。
話を切り出したのは、当然サミュエルだった。
「今日この場に集まってもらったのは外でもない、お前たちに北の辺境で発生した瘴気の浄化と魔物の討伐をしてもらうためだ」
サミュエルは椅子に背を深くもたれながら、憮然とした様子で以下のことを説明した。
まず、今回発生した瘴気が想定より濃く広範囲だったため、魔物を倒す魔法師や魔剣士に負傷者が多数出ていること。当然浄化も間に合わず、このままでは収束は望めないこと。そのため一刻も早く現地に向かってもらいたいこと。
また、この一年の間の瘴気の発生件数は例年の十倍にも及んでおり、地方の神官だけでは浄化が間に合わず、王都の神官が出払ってしまっていること。
そして神官の不足のために、リル湖に加護を付与するサミュエルの負担が増えているということだった。
75
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる