転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹の為にラスボスポジション返上します〜

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

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第1章 シナリオの幕開け

2.協力者ユリシーズ(後編)

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 ――今俺たち二人が居るのは、俺の屋敷の図書室だ。伯爵家なだけあってそれなりの蔵書数があり、一通りの調べ物には事足りる。

 俺はその部屋の四角いテーブルに、ユリシーズと向かい合って座っていた。

 机の上には、俺がここ数日で読んだ本十数冊が山積みになっている。――が、この一週間、部屋の本を読み漁っても瘴気についての記述はほとんど見つけられなかった。
 一人で調べることに行き詰まりを感じた俺は、アレクの記憶の中の親友、ユリシーズを呼んだのだ。

 初等部ジュニアの頃から何かと行動を共にしてきたユリシーズ。
 特徴のない茶色ブラウンの髪と瞳をしているが、前世平たい顔族だった俺からすればこいつも十分イケメンの部類に入るだろう。 
 少々人見知りなところはあるけれど、穏やかで面倒見がよく真面目で几帳面。それでいて、大事なことはこうやってちゃんと口に出して言ってくれる。
 そういうところを、アレクはとても信頼していた。

 きっとユリシーズなら、俺の話を聞いてくれるだろう。――アレクの記憶を基にそう判断した俺は、ユリシーズに問いかける。

「ちょっと聞きたいんだけど……お前の知ってる俺って、どういう人間だった?」
「…………」

 するとユリシーズは困惑の色を強めた。――まぁ当然だろう。

「実は俺、二週間前の馬車の事故から記憶が曖昧なんだ。自分のことも家族のこともお前のことも忘れたわけじゃないんだけど……何ていうか、夢のことみたいに思えるっていうか……」
「――え? ……それ、本当?」
「本当だ。でも、それでも俺はちゃんと覚えてるんだ。ユリシーズ……お前は信頼できるって。だから俺はお前に相談しようと思った。――国境で発生した瘴気の浄化のためにリリアーナが神殿に召されることが決まって、でも、俺はどうしても一人で行かせたくなくて。だから父上に頼んだんだ。俺も一緒に行かせてくれって。それで……」
「ま――待って、アレク! 情報が多すぎて何が何だか……。――君は記憶が曖昧で……リリアーナが神殿に……? 瘴気の浄化? だから、この本の山……? しかも、君がそれに付いていく……今、そう言ったのか?」
「ああ、流石ユリシーズ。理解が早くて助かる」
「…………」

 俺の返答に、ごくりと息を呑むユリシーズ。
 流石に驚きを隠せないのか、彼はやや顔をしかめ、しばらくの間固まっていた。
 そして十秒ほど放心したあと、はあっ、と息を吐いて席を立つ。

「アレク。窓、開けるよ?」
「ああ」

 返事を返すとほぼ同時に、ユリシーズは窓を開けた。
 ややカビ臭かった部屋の空気が、外へ逃げていく。

 その後しばらくの間、ユリシーズは苦い顔で庭園を眺めていた。
 そんな彼の横顔を、俺は黙って見つめていた。

 ――それからどれくらい経っただろうか。ユリシーズは外の景色を睨みつけたまま、口を開く。

「つまり君は、僕に協力を求めているってことだよね? 君とリリアーナの置かれている状況について、助言が欲しいって」
「ああ、そうだ」

 俺が頷くと、ようやくこちらを向くユリシーズの顔。
 そして、彼は頷いた。

「いいよ。本音では色々と言いたいことがあるけれど、君とリリアーナのためなら協力する」
「――! ありがとう、ユリシーズ!」
「お礼なんていらないよ。僕がしたくてするだけだから。あと、その瘴気の浄化、僕も一緒に行かせてもらうね」
「――んッ? 今、何て……」
「僕も一緒に行くって言ったんだよ、アレク。――言っておくけど今の君、かなり危なっかしいからね。以前の君ならともかく今の君じゃリリアーナを守れない。剣の腕は君の方が上だけど、魔法なら僕の方が上だ。記憶が曖昧な君よりはきっと役に立つ」
「…………」
「だから、君の方から話を通しておいてね。瘴気のことは僕が調べておいてあげるから」
「…………」

 ユリシーズの圧のある物言いに、俺の頭の中が疑問でいっぱいになる。

(こいつ、どうして急にこんなに怒ってるんだ……?)

 アレクの記憶の中のユリシーズは、普段はとても穏やかだか、ときおり怒るとこうしてやや口調がキツくなる。
 つまり、今のこいつは怒っているということだ。理由はわからないけれど。
 
 だが、ユリシーズの言うことはもっともだ。
 今の俺にアレクとしての記憶があるとはいえ、魔物とちゃんと戦うことができるのか正直不安が大きい。
 それに俺はもともとラスボスポジション。身に覚えがないのに瘴気は発生してしまっているし、一人でシナリオを変えられるのか怪しいところ。
 でもユリシーズが協力してくれるなら……。

「わかった。俺の方こそ、お前が一緒だと心強いよ。よろしくな、ユリシーズ」

 俺が右手を差し出すと、ユリシーズは一瞬驚いた顔をしてから、困ったように微笑んだ。

「うん。こちらこそよろしくね、アレク」

 そして、俺の手をしっかりと握り返すユリシーズ。


 ――こうして俺は、図らずも信頼できる協力者を得ることができた。

 リリアーナが神殿に召還されるまで、おそらく残り四ヵ月弱。
 俺にできることは限られているけれど、協力してくれるユリシーズのためにもできる限りのことをしよう。
 俺は再び、心にそう決めた。
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