147 / 158
拾◆池田屋事変
十
しおりを挟む――気づけば、部屋には私と沖田さんだけになっていた。斎藤さんもいつの間にかいなくなっている。
「あの……沖田さん? もしかして沖田さんは、本当は帝がどうして土方さんに呼ばれたのか知ってたり……しません、よね?」
――先ほどの帝の違和感たっぷりの態度。私の返答を待たずに、今までずっと避けていた沖田さんと会話を交わしたこと。その二点から、私は沖田さんにカマをかけた。……すると沖田さんは、不機嫌そうに私を見下ろす。
「僕が知るわけないでしょ」
それは先ほどと打って変わって、見慣れた沖田さんの表情だった。機嫌の悪さを素直に表に出しているときの、沖田さんの顔……。
それは決して嘘を言っている風ではない。
「そうですよね。すみません」
「別に。って言うかさ、やっぱりどう見たって秋月は僕を敵対視してるよね」
「――えっ」
「君も見てたでしょ、彼の顔――。公私混同どころの話じゃないよね、今の態度」
「……あ、……えーと」
「どう考えても、喧嘩を売ってるとしか思えない」
「……そんな、ことは」
沖田さんはここに私達以外の誰もいないのをいいことに、思いのままに気持ちを吐露する。
「君だって本当は気付いてるでしょ。――言っとくけど僕、これでもかなり譲歩してるんだ。なのに秋月ときたら……。君には悪いけど、僕もこれ以上は我慢の限界だよ。これから長州とやり合おうってときに、あれじゃあ背中を任せられない。向こうが今後も態度を改めるつもりがないのなら、僕だってこれ以上は見過ごすわけにはいかないよ」
「……そんな」
――確かに沖田さんの言うとおりだ。確かに先ほどの帝の態度はお世辞にも良いとは言えなかった。それに、私は確かに以前沖田さんにこう伝えてしまっていたのだ。「帝は公私混同はしない人間です」――と。これではその言葉が嘘だったということになってしまう。
「……すみません。帝とは……後でちゃんと話しておきますから」
どう答えるのが正解かわからず、私は帝の分まで謝罪する。けれど沖田さんは、私の言葉に更に苛立ちを深めたようだった。
「どうして君が謝るの」
――そう言って嘆息し、沖田さんは私に背中を向ける。不機嫌なオーラを全身から漂わせたまま、彼は広間から出て行こうとした。私はそんな沖田さんに対し、もはやどんな対応をしたらよいかわからず立ち尽くす。
すると、縁側に出たところで沖田さんは足を止めてこちらを振り返った。
「何ぼさっとしてるの。行くよ、武器の捜索」
「――あ、はい」
そうだった。私達は今から、奪取された武器の捜索に行くところだった。
私が沖田さんの背中を追えば、彼はボソッと呟く。
「長州の奴ら、絶対にこの僕が捕まえてやる」
その言葉の矛先は、既に帝から長州藩士へと変わっていた。そのことに、私は不謹慎にも安堵する。
とにかく、今は武器の捜索が最優先だ。帝には、後でちゃんと話をしておこう。私は心の中でそう決めて、足早で進む沖田さんに遅れないように、その後を追いかけた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
お尻たたき収容所レポート
鞭尻
大衆娯楽
最低でも月に一度はお尻を叩かれないといけない「お尻たたき収容所」。
「お尻たたきのある生活」を望んで収容生となった紗良は、収容生活をレポートする記者としてお尻たたき願望と不安に揺れ動く日々を送る。
ぎりぎりあるかもしれない(?)日常系スパンキング小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる