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拾◆池田屋事変
八
しおりを挟む◇◇◇
それは元治元年6月5日、西暦1864年7月8日のことだった。
「全員集まったな」
古高俊太郎が捕らえられたその日、隊士全員が広間に集められた。広間の前方には近藤さんと土方さん。そしてそれと向かい合うようにずらりと並ぶ幹部らと隊士一同がいる。
広間の空気は、緊張感でピンと張りつめていた。皆の表情がいつもより固い。私の斜め前に座る沖田さんからも、薄い殺気が漂ってくる。
「既に知っている者もいると思うが、本日早朝、山崎と島田の働きにより京都河原の枡屋の主人、湯浅喜右衛門――古高俊太郎を捕えた。枡屋で発見したものは、大量の武器、長州藩との書状等だ」
土方さんの言葉に、その場はざわめいた。
武器の貯蔵、そして長州藩との書状――それは攘夷派の活動を裏付けるものだ。皆の表情が険しくなる。ピリピリと空気が痛い。
私は池田屋事件の詳細は知らないし、政治的な動きや立場はよくわからない。けれど、そんな私でもこの状況が望ましくないことくらいはわかる。
そんな空気の中、土方さんはさらに続けた。
「だが先ほど――俺たちの管理下に置いていた武器の一部が、何者かに奪還された」
「――ッ」
その言葉に、部屋の空気は一層重みを増す。
「馬鹿なッ!」
「長州の奴ら」
皆、口々に呟き、殺気立った。私が沖田さんに視線をやれば、彼は眼光だけで人を殺せるのではないかというほど、瞳を鋭く尖らせている。
斎藤さんの後ろに座る帝も、皆と同じように険しい顔をしていた。
もちろん土方さんの表情なんて言うまでもなく……。話しかけることすら躊躇われるほどに立ち上る、殺気。
「俺は引き続き古高への拷問を行う。残りの者は奪還された武器の捜索と、武器を保持して何らかの目的に使用しようとしている勢力の捜索にあたれ」
目を合わせるのだって、勘弁願いたいほどの殺気。今まで感じたことのない異様な空気。
そんな土方さんの隣に座っている日向は、その殺気に当てられたのか顔を青くさせている。私はその姿に、いたたまれない気持ちになった。沖田さんの殺気も大概だが、土方さんのそれは別格だ。日向には辛いのではないだろうか。
そんなことを考えている間に、いつの間にやら話は終わっており、近藤さんと土方さんは広間から出て行こうとする。その後方には日向を連れ添っていた。
――まさか古高という人の拷問に付き合わせるつもりだろうか。私は一瞬、その様子を思い浮かべて身震いする。
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