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九◆廻りだす時間
二十一
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「総司! こりゃあ一体どういうことだ」
「……左之さん」
巡察中の原田や斎藤らが駆けつけたときには、既に事は済んだ後だった。そこには険しい表情で立ち尽くす沖田と、そのそばで怯えたように肩を震わせている千早の姿。そしてその足元には、絶命した三つの亡骸が転がっていた。
原田はそれらの遺体の刀傷に目をやりながら、ここで一体何が起こったのかと困惑する。
――原田さん、斎藤さん、早う来て! 向こうで斬り合いが! 沖田さんと佐倉さんが巻き込まれてもうて……私どないしたらッ!
巡察中の原田たちのもとに、椿が泣きながらそれを伝えに来たのは今よりほんの少し前のことだった。それを聞いた彼らは全速力で駆けつけたのだ。けれどこの状況を見るに、どうやら間に合わなかったらしい。
大量の返り血を浴びた千早は、大粒の涙を目に浮かべて斎藤に縋り付いている。
「……」
原田は無言でその光景を見やる。このような状況に慣れていない千早なら、まぁ当然の行動だろう――と。
原田は千早のことは斎藤に任せることにして、地面に転がる男の亡骸の傍で腰を落とした。三人のうち二人は身体の正面に刀傷が、残りの一人は背中から心臓を貫かれている。その傷はどれも深く致命傷で、あたりには血だまりができていた。
「総司……お前が斬ったのか?」
鋭く深い刀傷。一撃で相手の命を絶つほどの躊躇いのない一太刀。これほどの致命傷を与えるには、少なくとも自分や沖田ほどの実力が必要だろうと彼は考えていた。けれど沖田は何も答えない。
――違うってことか?
そう思って原田が死体を再度観察すれば、心臓を貫かれた一人は太ももにも深い傷を負っている。これは相手の動きを止めるための一撃だろう。――と言うことは、つまり……。
「お前が殺したんじゃねぇっつうんなら、これをやったのはどこのどいつだ?」
原田は男の傷に視線をやったまま、背後に立つ沖田に再度尋ねた。すると流石の沖田も、今度こそ口を開く。
「すみません、……逃げられました。どこのどいつかは不明です」
沖田はそう言って、瞳を暗く揺らめかせた。
「子供がこいつらに絡まれていて……それを千早が庇って斬られそうになったんです。そしたら突然あの男が現れてこいつらを……」
「……」
――何だ、この殺気は?
原田は沖田の暗い表情に違和感を覚えていた。今の話からするに、逃げた男は子供や千早の命を救ってくれたということだ。にも関わらず、沖田から発せられるのは強い殺気。それは既に事が済んだ今でさえ消えることが無い程の。
――確かに、この場を逃げおおせたというのは気になるが、それにしたってどうして総司はこんなに苛立ってんだ……?
原田は不審に感じながらも、続きを尋ねる。
「……なら、その絡まれてたっていう子供はどうした?」
「家に帰しましたよ、特に怪我もなさそうだったので」
沖田は皮肉気に口角を上げた。けれどもその殺気と鋭い眼光は消え去ることはない。
そんな沖田の姿に、原田は嘆息した。
おそらく逃げた男というのは相当に腕の立つ者だったのだろう。
本来なら当事者である少年を家に帰すなどありえない。せめて原田たち見回り組が来て、きちんと事情を聞いてから判断するべきことだ。けれど今の沖田はそれすら考えられない心境のようである。
それに、その男は千早の命の恩人と言っても差し支えない筈。それなのに沖田はその男に対して必要以上の殺気を漂わせている。つまりそれは、逃げた男がただ者ではないということを証明していた。
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