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九◆廻りだす時間
十三
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二人が店内に入るとすぐに、店番の娘が傍に寄って来た。
「あら、沖田さんやないの。久しぶりやなぁ」
「お久しぶりですね、椿ちゃん」
彼女の名は椿と言った。歳は二十前後で、この団子屋の看板娘だ。肌が美しく所作の一つ一つに品のある京都美人である。
「沖田さん近ごろ来いひんさかい、どないしとるか心配しとったんよ」
「しばらく忙しくって。でも、今日はゆっくりしていくつもりだよ」
「そら嬉しいわぁ。好きなとこ座ってぇな。――あら、そっちの方は新顔さん?」
椿は沖田の横で店内を見回している千早に微笑みかける。なんとも可憐な笑顔で――。
すると千早はどういう訳か頬を赤らめた。そのあからさまに照れているかのような表情に、沖田は心底困惑する。
「――え、何で君が赤くなるの」
「だって、凄い美人じゃないですか……!」
「はあ?」
――女同士で一体何を言っているんだ。それともこの場でも律義に男の振りをしているのか?
沖田はそんな風に思った。けれどそんなことを口に出すなど出来ないわけで……。
「……佐倉、初対面の相手にそういうことは言わないの」
沖田は仕方なく無難な言葉でたしなめる。すると千早はハッとした。
「――あっ、そうですよね。ごめんなさい」
「ふふっ。気にせんといて。褒められて嬉しない人はいーひんよ」
椿は微笑む。その顔は本当に気にしていないという表情だった。沖田は一先ず安堵し、今度こそ千早を連れて席についた。
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