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九◆廻りだす時間
七
しおりを挟むけれどそうは言ったって、自分は沖田の小姓である。だから小姓の仕事の範囲内であれば問題はない筈だし、もといた時代でだって、別に他の男子生徒との交流を制限されるようなことはなかった。――明らかに自分に言い寄ろうとしている男は別として、だが。
その点で言えば、相手が沖田なら問題はないはずだと千早は思っていた。何故なら、彼女は全くもって気付いていないからである。沖田が自分に対し、そういう意味で好意を持ち始めている……ということに。
だから彼女は、沖田の問いに笑顔で返す。
「帝は大丈夫です。ああ見えて、公私混同はしないんですよ」
そうでなければ、生徒会や部活動を円滑に進めることなど出来はしない。――千早は先月までの学校での帝の姿を思い浮かべ、一人納得したように微笑んだ。
沖田は、そんな千早の言葉に再び考えあぐねる素振りをする。やはり納得はいっていないようだ。けれどそれでも、「君が言うなら、そういうことにしておこうか」と笑顔を浮かべた。そうして彼はどういうわけか、急に千早の右手を取る。
「だったら今から、僕と一緒に街に出かけよう」
「――えっ?」
それは唐突な誘いだった。確かに今日は沖田は非番で、つまり自分も同じく非番だから外出自体は問題ないが……。
「二人で……ですか?」
「うん。よく考えたら巡察以外ではまだ一度も街を案内してあげたことなかったし、天気もいいから丁度いいと思うんだけど」
確かに沖田の言葉は正論だ。千早はここに来てまだ一度も、じっくりと街を探索したことはない。これはいい機会かもしれない。
「わかりました、行きます。でも、帝に一言伝えてきてもいいですか? あと、この手は放してもらっても……?」
千早は、沖田の右手に掴まれた自分の左手に目をやる。すると沖田は「ああ、ごめんね」とさらりと言って、手を放した。
「秋月に伝えておいで。一刻くらいで戻るって。――じゃあ、準備が出来たら門の前に集合ね」
「はい」
こうして二人は、街に出かけることになった。
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