桜の花びら舞う夜に(毎週火・木・土20時頃更新予定)

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

文字の大きさ
上 下
114 / 158
八◆二人の行方

二十

しおりを挟む

◇◇◇

 そうして廉が狭間と別れて3時間が経ったころ、廉は昂と共に一本の桜の木の前に立っていた。そこは恐らく、八条高校付近の雑木林の中だった。恐らくと言うのは、どういうわけかここに至る少し前よりスマホの電波が圏外になってしまったからである。圏外の為GPSが使えず、位置情報はわからない。付近をうろうろと移動してみてもそれは変わらなかった。

「……なんだよ、この桜」
 二人の目の前には、高さ20メートル程ありそうな立派な桜の木がそびえたっていた。それも、5月中旬のこの時期にも拘わらず、満開の状態で――。

 それはあまりにも異様な光景で、けれど言葉に言い表せないほどに綺麗な景色で――二人はしばらくの間会話も忘れ、桜を見入らずにはいられなかった。




 ――二人がこの場所を見つけたのは、ほんの少しの偶然と、そして努力の賜物だった。
 今より3時間前、昂から送られてきた写真を見た廉は、あることに気が付いた。

「……何だ、このファイル」
 千早と帝が映った写真――その中の千早が、カバン以外に「赤いファイル」を所持していることに。

 廉は写真を一目見てそのことに疑問を持った。何故なら、交番に届けられた千早の荷物にこのような赤いファイルはなかったからだ。

 それに気づいた廉は、すぐさま昂に連絡を取った。そして、その赤いファイルが一体何なのか確認した。そしてわかったこと。それはそのファイルが、剣道部の次の大会準備用のファイルだということだった。剣道部曰く、4月21日に千早が部室から持ち出して以来、行方不明になっているという。

 それを聞かされた廉は、自分の勘が正しかったことを確信した。もしも二人が本当にバス停で荷物を置き去りにしていたとしたら、そこには赤いファイルも共にあった筈である。けれどそれはなかった。ということは、バス停に荷物を置いたのは、ファイルの存在を知らない他の誰かだということになる。その誰かは、千早が赤いファイルを所持していることに気付かなかった。あるいは、その誰かが二人の荷物を発見したときには既に、赤いファイルは無くなってしまっていたのだろう――と。

 そしてその誰かは、廉の考えが正しければ、秋月刑事その人の筈である。何故なら秋月刑事はこう言っていたからだ。「帝のGPSの反応は、バス停で途絶えた」と。もし本当にバス停でGPSが途絶えたとしたら、そこには必ず赤いファイルもある筈なのに――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...