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八◆二人の行方
十八
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廉は狭間に、自分の妹とその彼氏であり秋月刑事の息子である帝が失踪中であることを説明した。そしてまた、秋月要が現在京都府警の刑事部長であることも伝えた。すると狭間はとても驚いた顔をした。
「あの人が刑事? 全然想像できないな」
そう言って眉をひそめた。
「秋月要さんは昔、どういう方だったんですか?」
廉が尋ねれば、狭間は突然立ち上がり、部屋の奥にある戸棚の引き出しを漁り始めた。そうして一冊のファイルを持って戻ると、それをテーブルの上で開く。そこには一枚の写真があった。昼間の山頂と青空を背景に、20人程のTシャツ姿の学生がカメラ目線でポーズを取っている。
「これは?」
「僕と秋月先輩が入っていた“物理学研究サークル”の夏休み活動中の写真だよ。撮ったのは確か、1988年だったかな」
「物理学研究? 秋月刑事が?」
「そうだよ。彼は僕と同じ物理工学専攻だった。だから驚いてるんだ。彼は警官なんて柄じゃない」
狭間は未だに納得がいかないという表情で、その写真の中の一人を指差した。「これが彼だ」と言う狭間の言葉通り、確かに秋月刑事の面影がある。だが、その表情は今の秋月刑事からは想像も出来ない程明るい。学生の輪の中心で、彼は人懐っこそうな笑みを浮かべている。周りのメンバーから肩に腕を回されている様子から、実際そのような人間であったことが見て取れた。当時はまだ眼鏡はかけていないようで、それも彼がより好青年に見える理由の一つなのかもしれない。
「ちなみに、僕はこっち」
狭間の指を追って廉が視線を横にずらせば、そこにはパンクというかヤンキー風な長髪の青年が映っていた。左右の耳にはピアスが3つずつ付いている。言われなければ、これが狭間であるとはわからない外見だ。
廉はその姿に、よくこれで京大に合格したものだ――と驚いた。まぁ、人は見かけに寄らないと言うし、今准教授をしているということは実力は確かなのであろう。
廉はそんなことを考えながら、写真をよくよく観察する。すると、学生たちの背後に巨大な望遠鏡が映っているのに気が付いた。
「この望遠鏡は?」
廉が尋ねれば、狭間は目を細める。それは懐かしい昔を思い出すかのような顔だった。
「この夏は星を観測しようってことになってね。皆で電波望遠鏡を作ったんだ」
「電波望遠鏡? 手作りできるものなんですか」
「ああ、仕組み自体は簡単なんだ。小さいものなら3日もあれば作れる。その場合は市場に出回ってる広帯域受信機やソフトウェアラジオなんかを使うことになるんだけどね。ただそれだとお金がかかるから……当時は学生でそういう訳にもいかなかったし、ハードは最低限のものだけ揃えて、ソフトは皆で自作したんだ。せっかくだからアンテナも大きいのにしようってことになって。アンテナの組み立てだけで丸3日かかったなぁ。山の上で皆で寝袋敷いてさ」
「工学部って色々なことをするんですね」
「まあサークルだしね。授業だとここまではやらないんだけど」
狭間は写真を見つめながら、言葉を続ける。
「秋月先輩はサークルの中心メンバーだったよ。僕より一学年上で、教養科目はともかく、専門科目の成績は学部内でぶっちぎりトップだったから、学期末テストではお世話になったな。でも彼はそれだけじゃなく、ユーモアとセンスも持ち合わせていたんだよ。明るくて人望もあったし、教授陣からは将来を有望視されていた。是非院に来ないかとも誘われていたしね」
「でも、院には進まなかったんですよね。それに彼が公務員試験を受けたのは卒業後何年も経ってから……ということは、一度は一般企業に就職したということでしょうか?」
廉が尋ねれば、狭間は難しい顔をした。そうして、「彼の実家が神社だと言うのは知ってる?」と尋ね返してくる。
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