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八◆二人の行方

十七

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「廉くん、君……」
 そして――次の瞬間。
「ふっ」と吹き出すような声がして、狭間は突然大声で笑いだした。それはあまりにも唐突な笑い声で、廉は大いに困惑する。

「何か……?」そう尋ね返せば、狭間はさらに声を大にして笑った。「君はあまり父親のことが好きではないんだね」と言いながら。

 ――そんなにおかしいことか?
 廉は今度こそ眉をひそめた。確かに狭間の言う通り、廉は父親を好いてはいない。が、何がそんなにおかしいというのだろうか。それに、「父親が好きではない」などと、普通は思っても口にするようなことではないだろう。それも初対面の相手に……。
 この狭間という男、思ったことがそのまま口に出てしまうタイプなのだろうか。

「そんなに面白いですか?」
「……いや、悪い悪い。気を悪くしたかな」
「いえ。別に。……事実ですから」
 やや無愛想に答えつつ、廉は苛立ちを抑えようとコーヒーを一口含む。
 瞬間、口の中に広がるのは繊細かつ爽やかな香り。

「……あ、美味い」
 思わず口から素直な感想が漏れる。すると途端に狭間は笑うのをやめた。そうして今度は、自慢げに腕組みをして鼻を鳴らす。

「だろう? コーヒーにはこだわってるんだ。何せ一日の大半をPCの前で過ごさなきゃならないもんだから」
 そう言いつつも、どこか誇らし気に感じられるのは気のせいではないだろう。

「本当に美味しいです」
「そうだろう、お変わりが欲しかったらいつでも言ってくれ」
「ありがとうございます」
 廉は狭間の申し出を笑顔で返す。そうして、テーブルの上で両手を組んだ。

 ――そろそろ本題に入らせて貰わなければ。
 このまま話の主導権を狭間に握られたままでは、一生本題に入れない気がするし。

「ところで――今日お伺いした訳なんですけど」
 廉が改まった様子で言えば、再び狭間は何か言いかけていた言葉を止める。
 彼も思い出したようだ。何故廉が自分を尋ねてきたのかを。

「そうだった、秋月先輩のことを聞きにきたんだったな。何でも聞いてくれ。こう見えて僕、秋月先輩とは結構仲が良かったんだ」
 そう言って、彼はにこりと微笑んだ。
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