105 / 158
八◆二人の行方
十一
しおりを挟む
◇
昂が連れていかれた先は校舎端の視聴覚室前の廊下だった。ほとんど使われないこの辺りの廊下には生徒はおらず、内緒話をするにはうってつけである。
「それで話って何ですか。姉ちゃんのことなんですよね」
昂はそこに着くな否や、自分に背を向けたままの上條に問いかけた。それは、生意気とも取られかねない態度だった。
けれど上條はその声に気分を害することもなく、上級生らしからぬ様子で背中をびくりと震わせる。「それなんやが……」と言いながら振り向いたは彼は、昂と視線を合わせることなく突如として頭を下げた。
「すまん! 俺、お前に謝らんといかんことがある!」
「――!?」
それは突然の謝罪だった。一体どういうことなのか、昂はわけもわからず困惑する。
「上條先輩……でしたよね。とりあえず頭を上げて下さい。全く意味がわかりません」
「お……おう。確かに……そうやな」
「もう少し詳しくお願いできますか?」
そう尋ねれば、上條は躊躇うように口を開く。そうして、ようやく本題を話し始めた。
「実は俺、あの日……二人が居なくなった夜、通学路で二人の姿を見とったんや」――と。
◇
上條の話はこうだった。
それは千早と帝が消えた4月21日の夜のこと。部活を終えた彼は――自転車置き場で千早たちと会話をしたあと――学校を出てバス停までの道のりを歩いていた。が、バスの時間までまだ少しあった為、途中にあるコンビニに寄ることにしたという。そうして買い物を済ませコンビニを出ると、彼はあることに気が付いた。自分が元来た道に、千早と帝の姿があったのである。
「うおっ、やっべ」
先の千早たちとの会話で気まずさを感じていた彼は、咄嗟に物陰に身を隠した。そうしてそのまま二人をやり過ごそうと考えた。けれどどういうわけか、いつまでたっても二人は来ない。
あまりに遅いので気になって様子を伺えば、二人は先ほど居た場所から全く動いていなかった。よくよく観察すれば、二人はどうやら黒猫と戯れている様子である。
「あの鬼主将が猫と遊んでる!?」
上條は心底驚いた。何がって、いつも隙のない帝が、屈託のない無邪気な顔で笑っていたのだ。それは校内では決して見せないような帝の顔で、彼はその笑顔についつい悪戯心を芽生えさせた。そうして気づいたときには、スマホのシャッターを押してしまっていた。
つまり上條は、事件発生予想時刻の二人の姿を写真に収めていたのである。
「……どうして、今頃」
この話を聞かされた昂は、身が煮えたぎる思いをした。
既に事件から3週間が経っているというのに、どうして今更――と。そもそも警察は事件後すぐに二人の目撃情報を探し始めた。それはもちろんこの学校の生徒も対象だ。それなのに、何故そのときすぐに名乗り出なかったのと、昂は強い怒りを感じていた。
「本当にすまんと思ってる。言い訳にしかならんけど、俺――怖くなってもうて。主将たちが行方不明って次の日聞いたとき、震えが止まらんくなってしもうて。怖くて怖くてたまらんくて、学校休んで……どないしよ思うとる間に、こないに時間が過ぎてもうて……」
「――っ」
昂は思わず、目の前の相手に罵声を浴びせそうになった。怒りに任せて殴りかかりそうになった。けれど彼はその衝動を必死に抑え、歯を食いしばる。
昂が連れていかれた先は校舎端の視聴覚室前の廊下だった。ほとんど使われないこの辺りの廊下には生徒はおらず、内緒話をするにはうってつけである。
「それで話って何ですか。姉ちゃんのことなんですよね」
昂はそこに着くな否や、自分に背を向けたままの上條に問いかけた。それは、生意気とも取られかねない態度だった。
けれど上條はその声に気分を害することもなく、上級生らしからぬ様子で背中をびくりと震わせる。「それなんやが……」と言いながら振り向いたは彼は、昂と視線を合わせることなく突如として頭を下げた。
「すまん! 俺、お前に謝らんといかんことがある!」
「――!?」
それは突然の謝罪だった。一体どういうことなのか、昂はわけもわからず困惑する。
「上條先輩……でしたよね。とりあえず頭を上げて下さい。全く意味がわかりません」
「お……おう。確かに……そうやな」
「もう少し詳しくお願いできますか?」
そう尋ねれば、上條は躊躇うように口を開く。そうして、ようやく本題を話し始めた。
「実は俺、あの日……二人が居なくなった夜、通学路で二人の姿を見とったんや」――と。
◇
上條の話はこうだった。
それは千早と帝が消えた4月21日の夜のこと。部活を終えた彼は――自転車置き場で千早たちと会話をしたあと――学校を出てバス停までの道のりを歩いていた。が、バスの時間までまだ少しあった為、途中にあるコンビニに寄ることにしたという。そうして買い物を済ませコンビニを出ると、彼はあることに気が付いた。自分が元来た道に、千早と帝の姿があったのである。
「うおっ、やっべ」
先の千早たちとの会話で気まずさを感じていた彼は、咄嗟に物陰に身を隠した。そうしてそのまま二人をやり過ごそうと考えた。けれどどういうわけか、いつまでたっても二人は来ない。
あまりに遅いので気になって様子を伺えば、二人は先ほど居た場所から全く動いていなかった。よくよく観察すれば、二人はどうやら黒猫と戯れている様子である。
「あの鬼主将が猫と遊んでる!?」
上條は心底驚いた。何がって、いつも隙のない帝が、屈託のない無邪気な顔で笑っていたのだ。それは校内では決して見せないような帝の顔で、彼はその笑顔についつい悪戯心を芽生えさせた。そうして気づいたときには、スマホのシャッターを押してしまっていた。
つまり上條は、事件発生予想時刻の二人の姿を写真に収めていたのである。
「……どうして、今頃」
この話を聞かされた昂は、身が煮えたぎる思いをした。
既に事件から3週間が経っているというのに、どうして今更――と。そもそも警察は事件後すぐに二人の目撃情報を探し始めた。それはもちろんこの学校の生徒も対象だ。それなのに、何故そのときすぐに名乗り出なかったのと、昂は強い怒りを感じていた。
「本当にすまんと思ってる。言い訳にしかならんけど、俺――怖くなってもうて。主将たちが行方不明って次の日聞いたとき、震えが止まらんくなってしもうて。怖くて怖くてたまらんくて、学校休んで……どないしよ思うとる間に、こないに時間が過ぎてもうて……」
「――っ」
昂は思わず、目の前の相手に罵声を浴びせそうになった。怒りに任せて殴りかかりそうになった。けれど彼はその衝動を必死に抑え、歯を食いしばる。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる