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八◆二人の行方
十一
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◇
昂が連れていかれた先は校舎端の視聴覚室前の廊下だった。ほとんど使われないこの辺りの廊下には生徒はおらず、内緒話をするにはうってつけである。
「それで話って何ですか。姉ちゃんのことなんですよね」
昂はそこに着くな否や、自分に背を向けたままの上條に問いかけた。それは、生意気とも取られかねない態度だった。
けれど上條はその声に気分を害することもなく、上級生らしからぬ様子で背中をびくりと震わせる。「それなんやが……」と言いながら振り向いたは彼は、昂と視線を合わせることなく突如として頭を下げた。
「すまん! 俺、お前に謝らんといかんことがある!」
「――!?」
それは突然の謝罪だった。一体どういうことなのか、昂はわけもわからず困惑する。
「上條先輩……でしたよね。とりあえず頭を上げて下さい。全く意味がわかりません」
「お……おう。確かに……そうやな」
「もう少し詳しくお願いできますか?」
そう尋ねれば、上條は躊躇うように口を開く。そうして、ようやく本題を話し始めた。
「実は俺、あの日……二人が居なくなった夜、通学路で二人の姿を見とったんや」――と。
◇
上條の話はこうだった。
それは千早と帝が消えた4月21日の夜のこと。部活を終えた彼は――自転車置き場で千早たちと会話をしたあと――学校を出てバス停までの道のりを歩いていた。が、バスの時間までまだ少しあった為、途中にあるコンビニに寄ることにしたという。そうして買い物を済ませコンビニを出ると、彼はあることに気が付いた。自分が元来た道に、千早と帝の姿があったのである。
「うおっ、やっべ」
先の千早たちとの会話で気まずさを感じていた彼は、咄嗟に物陰に身を隠した。そうしてそのまま二人をやり過ごそうと考えた。けれどどういうわけか、いつまでたっても二人は来ない。
あまりに遅いので気になって様子を伺えば、二人は先ほど居た場所から全く動いていなかった。よくよく観察すれば、二人はどうやら黒猫と戯れている様子である。
「あの鬼主将が猫と遊んでる!?」
上條は心底驚いた。何がって、いつも隙のない帝が、屈託のない無邪気な顔で笑っていたのだ。それは校内では決して見せないような帝の顔で、彼はその笑顔についつい悪戯心を芽生えさせた。そうして気づいたときには、スマホのシャッターを押してしまっていた。
つまり上條は、事件発生予想時刻の二人の姿を写真に収めていたのである。
「……どうして、今頃」
この話を聞かされた昂は、身が煮えたぎる思いをした。
既に事件から3週間が経っているというのに、どうして今更――と。そもそも警察は事件後すぐに二人の目撃情報を探し始めた。それはもちろんこの学校の生徒も対象だ。それなのに、何故そのときすぐに名乗り出なかったのと、昂は強い怒りを感じていた。
「本当にすまんと思ってる。言い訳にしかならんけど、俺――怖くなってもうて。主将たちが行方不明って次の日聞いたとき、震えが止まらんくなってしもうて。怖くて怖くてたまらんくて、学校休んで……どないしよ思うとる間に、こないに時間が過ぎてもうて……」
「――っ」
昂は思わず、目の前の相手に罵声を浴びせそうになった。怒りに任せて殴りかかりそうになった。けれど彼はその衝動を必死に抑え、歯を食いしばる。
昂が連れていかれた先は校舎端の視聴覚室前の廊下だった。ほとんど使われないこの辺りの廊下には生徒はおらず、内緒話をするにはうってつけである。
「それで話って何ですか。姉ちゃんのことなんですよね」
昂はそこに着くな否や、自分に背を向けたままの上條に問いかけた。それは、生意気とも取られかねない態度だった。
けれど上條はその声に気分を害することもなく、上級生らしからぬ様子で背中をびくりと震わせる。「それなんやが……」と言いながら振り向いたは彼は、昂と視線を合わせることなく突如として頭を下げた。
「すまん! 俺、お前に謝らんといかんことがある!」
「――!?」
それは突然の謝罪だった。一体どういうことなのか、昂はわけもわからず困惑する。
「上條先輩……でしたよね。とりあえず頭を上げて下さい。全く意味がわかりません」
「お……おう。確かに……そうやな」
「もう少し詳しくお願いできますか?」
そう尋ねれば、上條は躊躇うように口を開く。そうして、ようやく本題を話し始めた。
「実は俺、あの日……二人が居なくなった夜、通学路で二人の姿を見とったんや」――と。
◇
上條の話はこうだった。
それは千早と帝が消えた4月21日の夜のこと。部活を終えた彼は――自転車置き場で千早たちと会話をしたあと――学校を出てバス停までの道のりを歩いていた。が、バスの時間までまだ少しあった為、途中にあるコンビニに寄ることにしたという。そうして買い物を済ませコンビニを出ると、彼はあることに気が付いた。自分が元来た道に、千早と帝の姿があったのである。
「うおっ、やっべ」
先の千早たちとの会話で気まずさを感じていた彼は、咄嗟に物陰に身を隠した。そうしてそのまま二人をやり過ごそうと考えた。けれどどういうわけか、いつまでたっても二人は来ない。
あまりに遅いので気になって様子を伺えば、二人は先ほど居た場所から全く動いていなかった。よくよく観察すれば、二人はどうやら黒猫と戯れている様子である。
「あの鬼主将が猫と遊んでる!?」
上條は心底驚いた。何がって、いつも隙のない帝が、屈託のない無邪気な顔で笑っていたのだ。それは校内では決して見せないような帝の顔で、彼はその笑顔についつい悪戯心を芽生えさせた。そうして気づいたときには、スマホのシャッターを押してしまっていた。
つまり上條は、事件発生予想時刻の二人の姿を写真に収めていたのである。
「……どうして、今頃」
この話を聞かされた昂は、身が煮えたぎる思いをした。
既に事件から3週間が経っているというのに、どうして今更――と。そもそも警察は事件後すぐに二人の目撃情報を探し始めた。それはもちろんこの学校の生徒も対象だ。それなのに、何故そのときすぐに名乗り出なかったのと、昂は強い怒りを感じていた。
「本当にすまんと思ってる。言い訳にしかならんけど、俺――怖くなってもうて。主将たちが行方不明って次の日聞いたとき、震えが止まらんくなってしもうて。怖くて怖くてたまらんくて、学校休んで……どないしよ思うとる間に、こないに時間が過ぎてもうて……」
「――っ」
昂は思わず、目の前の相手に罵声を浴びせそうになった。怒りに任せて殴りかかりそうになった。けれど彼はその衝動を必死に抑え、歯を食いしばる。
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