95 / 158
八◆二人の行方
一
しおりを挟む千早と帝が姿を消してから既に2週間が経過していた。けれど警察の必死の捜索も虚しく、二人の行方は未だ掴めていない。それどころか、手がかり一つ見つかっていなかった。
そしてそのストレスからか廉は体調を崩し、ここ3日間に至ってはトイレ以外は一歩も部屋から出られずにいた。
「う……ぐっ……」
廉は部屋のゴミ箱に頭をつっこみ、食べたばかりの昼食を吐き戻す。何度吐いてもすっきりするどころか吐き気は増すばかりで、彼は憔悴しきっていた。
「……くそったれ」
蒼白どころか土気色に染まった顔はすっかり痩せこけ、全身の筋肉も落ちてしまった。以前の健康的な彼の姿は見る影もない。
部屋のカーテンは何日も閉め切られまま、空気は陰鬱とし、昼も夜もわからない。荒れ果てた部屋は、彼の今の荒んだ心そのものだ。机の上のスマホは何日も充電が切れたままで、友人からの連絡が届くことも無い。母親が部屋の前に置いて行く食事だけが、何とか彼を生かしているような状況だった。
彼はベッドの中にうずくまり、ただ死んだように過ごしていた。何も出来ないまま、刻一刻と過ぎていく時間を堪え忍ぶように。
「――……うッ」
廉は再び吐き気をもよおし、ベッドから這い出した。ゴミ箱に頭を突っ込んで嘔吐する。けれど昼に食べたものはすべて吐いてしまった今、逆流してくるのは胃液ばかりだ。
「……畜生」
彼は恨めしそうに呟いて、力なく項垂れる。
千早が姿を消して以来、彼は眠れなくなっていた。食欲もなく体重は10キロ減り、何とか無理やり飲み込んだとしても、結局全て吐いてしまう。今では立派な拒食症だ。しまいには弟にすら心配される始末。――彼のプライドは、もうズタズタだった。
「……千早」
彼は嗚咽の入り混じった声で妹の名を呟く。
――お前は俺なんかよりずっと辛い思いをしているんだろうに……。こんな姿、お前には絶対見せられないな。と、そんなことを考えながら。
ああ、まさか自分の神経がこんなにヤワだなんて想像もしなかった。こんなにも脆い精神だとは、思ってもみなかった。
「……ぐっ」
再び吐き気が込み上げる。吐いても吐いても収まることのないこの吐き気。気持ち悪くて堪らない。頭が痛くて耳鳴りがする。
「……んっとに、俺……」
――どうしようもねぇな。
本当に惨めだ。最悪だ。昂ですら毎日学校に通ってるっつーのに……。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件
石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」
隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。
紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。
「ねえ、もっと凄いことしようよ」
そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。
表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる