桜の花びら舞う夜に(毎週火・木・土20時頃更新予定)

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

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八◆二人の行方

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 千早と帝が姿を消してから既に2週間が経過していた。けれど警察の必死の捜索も虚しく、二人の行方は未だ掴めていない。それどころか、手がかり一つ見つかっていなかった。
 そしてそのストレスからか廉は体調を崩し、ここ3日間に至ってはトイレ以外は一歩も部屋から出られずにいた。

「う……ぐっ……」
 廉は部屋のゴミ箱に頭をつっこみ、食べたばかりの昼食を吐き戻す。何度吐いてもすっきりするどころか吐き気は増すばかりで、彼は憔悴しきっていた。

「……くそったれ」
 蒼白どころか土気色に染まった顔はすっかり痩せこけ、全身の筋肉も落ちてしまった。以前の健康的な彼の姿は見る影もない。

 部屋のカーテンは何日も閉め切られまま、空気は陰鬱とし、昼も夜もわからない。荒れ果てた部屋は、彼の今の荒んだ心そのものだ。机の上のスマホは何日も充電が切れたままで、友人からの連絡が届くことも無い。母親が部屋の前に置いて行く食事だけが、何とか彼を生かしているような状況だった。

 彼はベッドの中にうずくまり、ただ死んだように過ごしていた。何も出来ないまま、刻一刻と過ぎていく時間を堪え忍ぶように。

「――……うッ」
 廉は再び吐き気をもよおし、ベッドから這い出した。ゴミ箱に頭を突っ込んで嘔吐する。けれど昼に食べたものはすべて吐いてしまった今、逆流してくるのは胃液ばかりだ。

「……畜生」
 彼は恨めしそうに呟いて、力なく項垂れる。

 千早が姿を消して以来、彼は眠れなくなっていた。食欲もなく体重は10キロ減り、何とか無理やり飲み込んだとしても、結局全て吐いてしまう。今では立派な拒食症だ。しまいには弟にすら心配される始末。――彼のプライドは、もうズタズタだった。

「……千早」
 彼は嗚咽の入り混じった声で妹の名を呟く。
 ――お前は俺なんかよりずっと辛い思いをしているんだろうに……。こんな姿、お前には絶対見せられないな。と、そんなことを考えながら。

 ああ、まさか自分の神経がこんなにヤワだなんて想像もしなかった。こんなにも脆い精神だとは、思ってもみなかった。

「……ぐっ」
 再び吐き気が込み上げる。吐いても吐いても収まることのないこの吐き気。気持ち悪くて堪らない。頭が痛くて耳鳴りがする。

「……んっとに、俺……」
 ――どうしようもねぇな。
 本当に惨めだ。最悪だ。昂ですら毎日学校に通ってるっつーのに……。
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