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七◆未来への追憶

十一

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 だがその言葉は、樹の罵声によってかき消された。
 「廉!」と叫ばれ我に返れば、父親が自分を怒りの形相で睨んでいた。
 「なんて失礼なことを言うんだ、今直ぐにお詫びしなさい」――そう言って顔を真っ赤に染める父親に、廉は先の自分の言葉が失言だったと理解する。

 けれども廉からしてみれば、決して納得できないことだった。何故自分が謝らなければならないのか、相手が警官だからか? その階級故か? それとも帝の父親だからなのか? そう思った。

 冷静に考えれば、子供を心配しない親などいないとすぐにわかる。感情を表に出すことが出来ない状況というだけで、秋月刑事が帝を心配していない筈がない。

 けれど廉からすれば、この秋月要と言う男はあまりにも冷静すぎた。
 自分の息子が行方不明だと言うのに顔色一つ変えることなく、声色だって乱れない。その様子からは、どうしたって帝を心配しているとは思えないのだ。

 それに父親の樹が自分を叱りつける理由も気に食わなかった。なぜなら廉は、父親が自分を叱責した理由をよく理解していたからだ。

 樹が自分を怒ったのは、秋月刑事が帝を心配していることを想像したからではない。
 父はただ、目の前のこの相手が警視正だから・・・・・・怒っているのだ。警察内の権力に恐れ、敵に回したくないから責めるのだ。

 もしもこれが一介の警官なら樹の反応は違っていた筈。廉と同じように「君はそれでも父親なのか」と相手を諭していただろう。
 けれどそうしないのは、樹が娘の心配よりも自身の保身を優先したからだ。

 勿論、ここで相手を怒らせたら娘の捜索に差し障る。その可能性も考慮したのだろう。けれどやはり廉からすれば、樹の態度は卑怯に思えて仕方が無かった。

「……っ」
 ――ああ、一瞬でもこの男に期待した自分が馬鹿だった。
 廉は拳を握り締め、憤る。
 そうだ、この男は昔からそうだったではないか。家族より仕事。自分の利益を優先し、保身に走る。そういう男だったではないか。

 ――絶対に、謝ってなどやるものか。
 廉は秋月刑事を睨みつける。きっとこの刑事も父親と同じように俺の発言を咎めるのだろう。そんな風に予想しながら。
 けれど、その予想はすぐに覆された。

「そうだな。確かに君の言う通りだ――廉君」
 なんと秋月刑事は、廉の言葉を肯定したのだ。

「確かに私は、この状況について諦めてしまっている節がある。いつかこんな日が来るのではと、一度は確かに考えていたのだから」
 彼は短く息を吐き、眼鏡の奥の鋭い視線をやわらげる。自分に怒りの目を向ける廉の方へ膝を向け、頼りなく微笑んだ。それは自らの過ちを後悔するような、悲し気な笑みだった。

「少し――昔話をさせて頂きましょう」
 そして彼は膝の上で両手を組むと、躊躇いがちに話し始めた。
 
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