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七◆未来への追憶
六
しおりを挟む「――そうだ。昂は?」
「昂なら部屋にいるけど」
昂とは千早の2つ下、つまり廉からすると8つ下の弟である。千早が通う八条高校に入学したばかりの1年生だ。
部活はサッカー部だが、もしや昂なら何か知っているかもしれない。
そう考えた廉は階段を駆け上がり昂の部屋の扉を叩いた。
「昂、開けろ!」そう叫ぶと、しばらくしてから鍵の開く音がする。そうして扉を開けた昂は、ヘッドフォンをしていた。ゲームでもしていたのだろう。
「何?」
昂はうっとおし気に兄を見上げた。
サッカー部らしい短髪に、女子と間違われそうなほどの童顔。けれどその顔立ちとは対照的に、その瞳には睨むような強気な光が宿っている。
けれどそれはいつものことだ。廉は昂の態度など全く気にせず要件を伝える。
「千早がまだ帰らないんだ。お前何か知らないか?」
「――は?」
すると、今の今まで廉を睨みつけていた瞳が大きく揺れた。先ほどの廉と同じように、昂も異変を感じたようだった。
「え……連絡ないの?」
そして再び、同じ質問が繰り返される。
廉が「あったら聞かねぇよ」と答えれば、昂は何か考えるそぶりを見せた。そうして一度は「俺今日部活無かったし、知らない」と呟く。けれどすぐに「だけど――」と顔を上げた。
「姉ちゃん、毎日秋月先輩と帰ってるよ」
「――!」
その言葉に、廉の脳裏に過る帝の姿――。
そうだ、帝と千早は付き合っているのだ。そのことを思い出した廉は再びスマホをタップする。ラインで帝に電話をかけた。けれど、こちらはコール音すら聞こえない。
「……圏外?」
廉は今度こそ呆然とした。
いよいよ悪い予感がする。まさかこのご時世に圏外などよっぽどあることではない。充電が切れてしまっただけという可能性は捨てきれないが、二人揃って連絡が取れないなんて普通ではない。
「……マジで何かあったのか?」
スマホを掴む廉の手のひらは、いつの間にか冷や汗で酷くべたついていた。手先が冷えて、心臓の鼓動が速まる。
それはどうやら昂も同じようで、ショックを受けた様に肩を大きく震わせた。
◇
結局それ以上どうすることも出来ないまま、二人は階下へ下りていった。
そして両親と共に、千早の帰りを待つほかなかった。
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