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六◆偽りの過去

十三

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◇◇◇
 
 しばらく沈黙が続いた。確かに、二人の言葉には根拠があった。千早は最初家事は一切出来ず、和時計や文字においては未だに殆ど読むことが出来ない。お金を数えることもそうだった。その理由が、ずっと国外に住んでいたからというのなら納得できる。それに帝は異国の言葉を流暢に話し、千早はそれを瞬時に訳してみせた。まぁ、それが正しい内容かどうかは確かめようもないのだが……。

 土方は考える。眉根を寄せ、腕組みをして――ただじっと考えていた。

 確かに理屈は通っている。だがしかし――と。どうにも出来過ぎた話に聞こえるのだ。あまりに胡散臭く感じてしまうのだ。
 だが、確かに帝の話した内容以外に、二人の正体について思い当たることはない。土方は短く唸り声を上げる。

 ――二人から敵意は感じない。寧ろ千早からは確かに自分たちへの感謝の念が伝わってくる。それは事実だ。けれど、どうも嫌な感覚が拭えない。こうやって改めて説明を受けても、心の深いところに得体の知れない気持ち悪さが残るのだ。

 かと言ってやはり、これ以上の懸念点が見つからないのも事実である。それに、ここから出て行きたいと言っているならいざ知らず、頭を下げてまでここに置いてくれと言っている相手を無碍にすることも、まして“処分”することなど出来ない。それは新選組の信念にも反する。

「――ッチ」
 土方は忌々いまいまし気に舌打ちした。
 
 彼が沖田を横目で見れば、表情にこそ出さないものの、千早の処遇を気にしているのは明白だ。それにどうやら山南も、二人を受け入れてもいいのではという姿勢を見せている。ここに居ない近藤に尋ねたところで、きっと答えは同じだろう。
 つまり答えは――だくである。

「……仕方ねェ。秋月、お前を隊士として認める。だが勘違いするな。お前らのことを信用したわけじゃねェ。そもそも異国に住んでいたなど異人も同然。おかしな真似しやがったら、即刻死刑だ。それと、異国に住んでいたことは他言するな。勿論他の幹部にもだ。破ったらタダじゃおかねェ。――わかったな」

 低い声でそう告げる土方に、帝は頭を下げたまま答える。「承知しました。ご温情深く感謝します」――と。



 こうして二人はなんとか無事に、新選組の一員として認められることとなったのである。
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