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六◆偽りの過去

十一

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◇◇◇

 ――帝、凄い。

 千早は、隣に座る帝の話に高揚こうようすら感じた。いきなり兄の名を出されたことには驚いたが、帝のその一瞬の隙も許さない、出来過ぎた話の内容に軽い興奮すら覚えていた。

 千早は帝の声にじっと耳を傾け、帝の話を自分のこととして記憶に刻み込む。自分は幼少期からずっとイギリスに住んでいた。それが今の自分の過去なのだと。

 話を終えた帝に、土方は問う。

「だが、お前の話には証拠がねェ。そうだろ?」

 ――ああ、確かにそうだ。誰もが気付いていた。土方の言う通り、帝の話には何の証拠もない。それに何より、それが真実だったとして、新選組に害を成さない証明にはならないのだ。

 けれど勿論、そんなことは帝にだってわかっていた。「証拠ですか」とそう呟いて、彼は土方を見据える。そして自分の右手を胸に当て、宣言した。

「俺たち自身が証拠です」――と。

「何だと?」
「ですから、俺たち自身がその証拠です、と」

 二人はしばらくの間睨み合った。空気が張り詰める。
 それを破ったのは山南だった。

「まあまあお二人とも。秋月君、もう少し詳しくお願いします。あなた方自身が証拠とは、一体どういう意味なのですか」
 山南は仲裁に入る。すると帝はニヤリと微笑んだ。それは「よくぞ聞いてくれました」そんな言葉が聞こえてきそうな顔だった。
 帝はゆっくりと口を開く。そして、得意気にこう言った。

「We can speak English」
「――!」
「That should be enough proof, but how about it?」


 この帝の突然の発言に、その場は今度こそ騒然となった。それは紛れもない流暢な英語で、英語を知らない土方らからしてもそれは明白で――千早と帝の二人が国外に居たことを証明するには十分に足りる証拠だったからだ。

 土方も山南も、そして沖田も――今度こそ沈黙する。
 
 けれど千早は、千早だけはそんな帝の突然の英語を冷静に聞いていた。――ああ、先ほど帝が言っていたのは、このことだったのかと。
 千早はこの部屋に入る前、帝に問われていた。「TOEICのリスニング、何点だった?」と。あの質問は、この為か。
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