73 / 158
六◆偽りの過去
十一
しおりを挟む
◇◇◇
――帝、凄い。
千早は、隣に座る帝の話に高揚すら感じた。いきなり兄の名を出されたことには驚いたが、帝のその一瞬の隙も許さない、出来過ぎた話の内容に軽い興奮すら覚えていた。
千早は帝の声にじっと耳を傾け、帝の話を自分のこととして記憶に刻み込む。自分は幼少期からずっとイギリスに住んでいた。それが今の自分の過去なのだと。
話を終えた帝に、土方は問う。
「だが、お前の話には証拠がねェ。そうだろ?」
――ああ、確かにそうだ。誰もが気付いていた。土方の言う通り、帝の話には何の証拠もない。それに何より、それが真実だったとして、新選組に害を成さない証明にはならないのだ。
けれど勿論、そんなことは帝にだってわかっていた。「証拠ですか」とそう呟いて、彼は土方を見据える。そして自分の右手を胸に当て、宣言した。
「俺たち自身が証拠です」――と。
「何だと?」
「ですから、俺たち自身がその証拠です、と」
二人はしばらくの間睨み合った。空気が張り詰める。
それを破ったのは山南だった。
「まあまあお二人とも。秋月君、もう少し詳しくお願いします。あなた方自身が証拠とは、一体どういう意味なのですか」
山南は仲裁に入る。すると帝はニヤリと微笑んだ。それは「よくぞ聞いてくれました」そんな言葉が聞こえてきそうな顔だった。
帝はゆっくりと口を開く。そして、得意気にこう言った。
「We can speak English」
「――!」
「That should be enough proof, but how about it?」
この帝の突然の発言に、その場は今度こそ騒然となった。それは紛れもない流暢な英語で、英語を知らない土方らからしてもそれは明白で――千早と帝の二人が国外に居たことを証明するには十分に足りる証拠だったからだ。
土方も山南も、そして沖田も――今度こそ沈黙する。
けれど千早は、千早だけはそんな帝の突然の英語を冷静に聞いていた。――ああ、先ほど帝が言っていたのは、このことだったのかと。
千早はこの部屋に入る前、帝に問われていた。「TOEICのリスニング、何点だった?」と。あの質問は、この為か。
――帝、凄い。
千早は、隣に座る帝の話に高揚すら感じた。いきなり兄の名を出されたことには驚いたが、帝のその一瞬の隙も許さない、出来過ぎた話の内容に軽い興奮すら覚えていた。
千早は帝の声にじっと耳を傾け、帝の話を自分のこととして記憶に刻み込む。自分は幼少期からずっとイギリスに住んでいた。それが今の自分の過去なのだと。
話を終えた帝に、土方は問う。
「だが、お前の話には証拠がねェ。そうだろ?」
――ああ、確かにそうだ。誰もが気付いていた。土方の言う通り、帝の話には何の証拠もない。それに何より、それが真実だったとして、新選組に害を成さない証明にはならないのだ。
けれど勿論、そんなことは帝にだってわかっていた。「証拠ですか」とそう呟いて、彼は土方を見据える。そして自分の右手を胸に当て、宣言した。
「俺たち自身が証拠です」――と。
「何だと?」
「ですから、俺たち自身がその証拠です、と」
二人はしばらくの間睨み合った。空気が張り詰める。
それを破ったのは山南だった。
「まあまあお二人とも。秋月君、もう少し詳しくお願いします。あなた方自身が証拠とは、一体どういう意味なのですか」
山南は仲裁に入る。すると帝はニヤリと微笑んだ。それは「よくぞ聞いてくれました」そんな言葉が聞こえてきそうな顔だった。
帝はゆっくりと口を開く。そして、得意気にこう言った。
「We can speak English」
「――!」
「That should be enough proof, but how about it?」
この帝の突然の発言に、その場は今度こそ騒然となった。それは紛れもない流暢な英語で、英語を知らない土方らからしてもそれは明白で――千早と帝の二人が国外に居たことを証明するには十分に足りる証拠だったからだ。
土方も山南も、そして沖田も――今度こそ沈黙する。
けれど千早は、千早だけはそんな帝の突然の英語を冷静に聞いていた。――ああ、先ほど帝が言っていたのは、このことだったのかと。
千早はこの部屋に入る前、帝に問われていた。「TOEICのリスニング、何点だった?」と。あの質問は、この為か。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
「2人の青、金銀の護り」 それはあなたの行先を照らす ただ一つの光
美黎
ライト文芸
先祖が作った家の人形神が改築によりうっかり放置されたままで、気付いた時には家は没落寸前。
ピンチを救うべく普通の中学2年生、依る(ヨル)が不思議な扉の中へ人形神の相方、姫様を探しに旅立つ。
自分の家を救う為に旅立った筈なのに、古の予言に巻き込まれ翻弄されていく依る。旅の相方、家猫の朝(アサ)と不思議な喋る石の付いた腕輪と共に扉を巡り旅をするうちに沢山の人と出会っていく。
知ったからには許せない、しかし価値観が違う世界で、正解などあるのだろうか。
特別な能力なんて、持ってない。持っているのは「強い想い」と「想像力」のみ。
悩みながらも「本当のこと」を探し前に進む、ヨルの恋と冒険、目醒めの成長物語。
この物語を見つけ、読んでくれる全ての人に、愛と感謝を。
ありがとう
今日も矛盾の中で生きる
全ての人々に。
光を。
石達と、自然界に 最大限の感謝を。
その演劇部は、舞台に上がらない
溝野重賀
ライト文芸
そこはどこにでもあるありふれた部活だった。
名門でもなく伝説があるわけでもなく、普通の実力しかない小さな高校の演劇部だった。
大会に本気で勝ちたいと言う人もいれば、楽しくできればそれでいいという人もいて、
部活さえできればいいという人もいれば、バイトを優先してサボるという人もいて、
仲のいい奴もいれば、仲の悪いやつもいる。
ぐちゃぐちゃで、ばらばらで、ぐだぐだで
それでも青春を目指そうとする、そんなありふれた部活。
そんな部活に所属している杉野はある日、同じ演劇部の椎名に呼び出される。
「単刀直入に言うわ。私、秋の演劇大会で全国に出たいの」
すぐに返事は出せなかったが紆余曲折あって、全国を目指すことに。
そこから始まるのは演劇に青春をかけた物語。
大会、恋愛、人間関係。あらゆる青春の問題がここに。
演劇×青春×ヒューマンドラマ そして彼らの舞台はどこにあるのか。
【完結】マーガレット・アン・バルクレーの涙
高城蓉理
ライト文芸
~僕が好きになった彼女は次元を超えた天才だった~
●下呂温泉街に住む普通の高校生【荒巻恒星】は、若干16歳で英国の大学を卒業し医師免許を保有する同い年の天才少女【御坂麻愛】と期限限定で一緒に暮らすことになる。
麻愛の出生の秘密、近親恋愛、未成年者と大人の禁断の恋など、複雑な事情に巻き込まれながら、恒星自身も自分のあり方や進路、次元が違うステージに生きる麻愛への恋心に悩むことになる。
愛の形の在り方を模索する高校生の青春ラブロマンスです。
●姉妹作→ニュートンの忘れ物
●illustration いーりす様
【完結】邪神が転生 ! 潮来 由利凛と愉快な仲間たち
るしあん@猫部
ファンタジー
妾は、邪神 ユリリン 修行の為に記憶を消して地上に転生したのじゃが………普通に記憶が残っているのじゃ !
ラッキー ! 天界は退屈だったから地上で人間として、名一杯 楽しむのじゃ !
るしあん 八作目の物語です。
【完結】お茶を飲みながら -季節の風にのって-
志戸呂 玲萌音
ライト文芸
les quatre saisons
フランス語で 『四季』 と言う意味の紅茶専門のカフェを舞台としたお話です。
【プロローグ】
茉莉香がles quatre saisonsで働くきっかけと、
そこに集まる人々を描きます。
このお話は短いですが、彼女の人生に大きな影響を与えます。
【第一章】
茉莉香は、ある青年と出会います。
彼にはいろいろと秘密があるようですが、
様々な出来事が、二人を次第に結び付けていきます。
【第二章】
茉莉香は、将来について真剣に考えるようになります。
彼女は、悩みながらも、自分の道を模索し続けます。
果たして、どんな人生を選択するのか?
お話は、第三章、四章と続きながら、茉莉香の成長を描きます。
主人公は、決してあきらめません。
悩みながらも自分の道を歩んで行き、日々を楽しむことを忘れません。
全編を通して、美味しい紅茶と甘いお菓子が登場し、
読者の方も、ほっと一息ついていただけると思います。
ぜひ、お立ち寄りください。
※小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にても連載中です。
千物語
松田 かおる
ライト文芸
「1000文字固定」で書いた作品を公開しています。
ジャンルは特に定めていません。
実験作品みたいな側面もありますので、多少内容に不自然感があるかもしれません。
それにつきましてはご容赦のほど…
あと、感想などいただけると、嬉しくて励みになります。
原則「毎週火曜日21:00」に更新します。
せんせい、僕に描き方を教えてください
てるる
ライト文芸
趣味でコッソリ創作活動をしている
高校教師と、創作衝動に目覚めてしまった
厨二病患者との、阿呆なやりとりから、
創作を真面目に検証します。知らんけど。
南洋王国冒険綺譚・ジャスミンの島の物語
猫村まぬる
ファンタジー
海外出張からの帰りに事故に遭い、気づいた時にはどことも知れない南の島で幽閉されていた南洋海(ミナミ ヒロミ)は、年上の少年たち相手にも決してひるまない、誇り高き少女剣士と出会う。現代文明の及ばないこの島は、いったい何なのか。たった一人の肉親である妹・茉莉のいる日本へ帰るため、道筋の見えない冒険の旅が始まる。
(全32章です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる