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六◆偽りの過去
八
しおりを挟む帝は膝の上の拳を、強く握りしめる。そしてようやく、口を開いた。
「千早から聞きました。俺たちは“間者”ではないかと疑われていると。結論を言えば、俺たちは間者ではありません。それに俺たちが何者かと言われても、ただの秋月帝と佐倉千早だとしか答えられませんし、それ以上でも以下でもありません」
帝ははっきりとそう告げる。これは、事実。嘘をつく際は真実を織り交ぜる。それがセオリーだ。
それに対して、土方はすぐさま言葉を返す。
「お前たちが“白”かどうかは俺が決める。質問に答えろ。お前らは一体どこから来た」
それは確信を突いた質問だった。“どこから来たか”それがこの話し合いの全てだ。答えは“未来から”。だが、それだけは口にしてはならない。
帝はゆっくりと息を吐く。頭の中で情報を整理し、土方を納得させる答えを導きだそうと考える。
とにかく、ここで守らなければならないのはただ一つだけ。自分たちが“未来の人間”であると知られないこと。これは絶対だ。もし知られれば死あるのみ。そもそも未来の人間だなんて言われて信じる者はいないだろうが、信じられても困るのだ。未来のことを聞かれて、幕府は倒れます、などと答えるわけにはいかない。
――ならば、もう選択肢は一つしかない。
帝は覚悟を決める。
「俺たちは、グレート・ブリテンから来ました」
そして帝が口にした一言。それは、あまりにも大胆な選択だった。
そう、つまり帝は、自分たちが外国から来たと言ったのである。
帝は目の前の土方の様子から、彼が自分たちの素性を調べ、けれど何もわからなかったのだろうと推測した。ならば今ここで、一つの情報も出てこない納得の理由を提示しておかなければならない――と考えたのだ。
それに、未来や異世界から転移するのに比べれば、外国から来たと言うのは俄然現実的である。少なくとも帝はそう判断した。
イギリスを選んだのは、英語圏で真っ先に浮かんだのがイギリスだったというだけだったが、この時代には既にイギリスと貿易をしている筈だからそれほど問題はないだろう。
「ぐれーと……ぶりてん、ですか?」
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