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四◆迷いと覚悟の、その狭間
六
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確かにそうだ。沖田の言う通り、千早はこの時代の町には一度だって出たことがない。こちらに飛ばされてきた当日は、不定浪士から逃げる為に走り回ったが、それは既に日が沈んだ後だった。
千早は顔を強張らせて俯く。一体何と答えたらいいのだろうと。
「もしかして本当に隠し通せる自信があったの? さっきの日向ちゃんとの会話もおかしかったし。君、本当は見世物小屋になんて入ったことないでしょう?」
「……え」
「あのね、確かに見世物小屋に珍獣はいるよ。けど象って大きくて危険だろ。遠くからしか見られないよ。それなのに色はともかく、肌質までわかるなんて……君は象の世話でもしたことがあるわけ?」
「……」
「それにまともな金勘定も出来ない。買い物すらしたことないって顔だ。そんなんで隠し通せると思ってる方がおかしいよ」
「……確かに、そうですよね」
本当にそのとおりである。とは言え、お金の計算のついては、本当に出来なかったのだから仕方ない。千早は諦めて、沖田の言葉を肯定することにした。それに町歩きをしたことがないからと言って、それがイコール新選組の敵となるわけでもあるまい。
観念した様子の千早に、沖田は再び大きく息を吐いた。
「やっぱりね。でも勘違いしないで欲しい。別に責めてるわけじゃない。内緒にされてたことはいい気分じゃないけど、別に町歩きしたことないからって、何が悪いってわけじゃないし」
その言葉に千早が顔を上げれば、確かに目の前の沖田に自分を責めている様子はなかった。これは一体どういうことか。
「家事は出来ない、常識もない。にも関わらず剣道の腕は確かで器量も悪くない。さっきの手ぬぐいも高価な品のようだったし、それに――君は“駆け落ち”してきたと言ったね」
沖田は独り言のように続ける。
「つまり――君の正体は……」
その言い方は、まるで警官か探偵のようだった。相手を追い詰める際の口調。まぁ、実際には取り調べなど一度だって受けたことはないのだが。
緊張した面持ちでごくりと喉を鳴らす千早に、とうとう沖田は――告げる。
「どこぞの良家の娘なんじゃない?」
「……え」
「あの秋月とか言う男は、奉公人か何かでしょう?」
「――は」
この言葉に、千早の喉から気の抜けた声が漏れる。同時に心の中では、全然違う! と叫んでいた。
千早は顔を強張らせて俯く。一体何と答えたらいいのだろうと。
「もしかして本当に隠し通せる自信があったの? さっきの日向ちゃんとの会話もおかしかったし。君、本当は見世物小屋になんて入ったことないでしょう?」
「……え」
「あのね、確かに見世物小屋に珍獣はいるよ。けど象って大きくて危険だろ。遠くからしか見られないよ。それなのに色はともかく、肌質までわかるなんて……君は象の世話でもしたことがあるわけ?」
「……」
「それにまともな金勘定も出来ない。買い物すらしたことないって顔だ。そんなんで隠し通せると思ってる方がおかしいよ」
「……確かに、そうですよね」
本当にそのとおりである。とは言え、お金の計算のついては、本当に出来なかったのだから仕方ない。千早は諦めて、沖田の言葉を肯定することにした。それに町歩きをしたことがないからと言って、それがイコール新選組の敵となるわけでもあるまい。
観念した様子の千早に、沖田は再び大きく息を吐いた。
「やっぱりね。でも勘違いしないで欲しい。別に責めてるわけじゃない。内緒にされてたことはいい気分じゃないけど、別に町歩きしたことないからって、何が悪いってわけじゃないし」
その言葉に千早が顔を上げれば、確かに目の前の沖田に自分を責めている様子はなかった。これは一体どういうことか。
「家事は出来ない、常識もない。にも関わらず剣道の腕は確かで器量も悪くない。さっきの手ぬぐいも高価な品のようだったし、それに――君は“駆け落ち”してきたと言ったね」
沖田は独り言のように続ける。
「つまり――君の正体は……」
その言い方は、まるで警官か探偵のようだった。相手を追い詰める際の口調。まぁ、実際には取り調べなど一度だって受けたことはないのだが。
緊張した面持ちでごくりと喉を鳴らす千早に、とうとう沖田は――告げる。
「どこぞの良家の娘なんじゃない?」
「……え」
「あの秋月とか言う男は、奉公人か何かでしょう?」
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