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壱◆彼ら、新選組
二
しおりを挟む「……どうしたらいいの」
気付けば、いつのまにか自分の頬が濡れていた。怖くて――怖くて。もうどうしようもできない。何もわからない。芋虫のような恰好でただ畳に突っ伏して、彼女はただ泣くことしかできなかった。
だが――そんな彼女の嗚咽に反応したのだろうか。
千早の傍に寝かせられていた少女が薄っすらと目を開けた。彼女は少しの間茫然としていたが、突如として顔を上げると、横で泣きはらす千早を凝視した。
「あの……大丈夫、ですか?」
そう声をかけられて、千早はびくりと肩を震わせた。
「どこか怪我でも……」
その言葉に千早が隣を向けば、少女は自分を心配そうに見つめている。
それは、千早と同じかそれより少し下くらいの年頃の、小柄な女の子だった。昨夜は暗がりでわからなかったが、柿色の着物に胡桃色の袴を履いている。千早とは正反対のタイプの顔立ちの彼女は、どちらかと言えば童顔で幼い。長く艶やかな黒髪は後頭部の高い位置で結われている。千早との共通点と言えば、色白なくらいだろうか。
「……大丈夫、怪我は大したことないの、私は」
ああ、人前でみっともなく泣いてしまった……。千早は自己嫌悪に陥りながら涙をどうにかして拭けないものかと考えた。けれど、両手を縛られている状況ではどうにもならない。それに改めて自分の姿を確認すると、紺色のブレザーは砂と土埃で白く汚れているし、スカートには血がべったりとこびり付いていた。涙なんて気にしたって仕方がないくらい、今の自分の恰好は酷い有様なのだ。
「あの……昨夜私を助けて下さった方、ですよね?」
少女は千早に問いかけて、畳の上に突っ伏したまま彼女に頭を下げる。
それを見て、千早は再び昨夜のことを思い出した。――そう言えば、自分は途中で気を失ってしまったが、この子ならあの後帝がどうなったのか知っているのではなかろうか、と。
「昨日、私と一緒にもう一人男の子が居たでしょう? その子、どこに居るのか知らない?」
千早は尋ねる。けれど、少女は首を横に振った。
「ごめんなさい。私もあの後すぐに気絶させられてしまって。――だから、その方の居所はわからないんです」
だけど――と、少女は続けた。
「ここがどこかならわかります」
「ほんとに?」
「はい」
少女の言葉に、千早は覚悟する。この場所がどこなのか。それはきっと、きっと、普通ならあり得ないような場所なのだろう。けれど、現実は受け止めなければならない。
「ここは、新選組の屯所です」
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