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零◆始まり
五
しおりを挟む「あっ」
あるものに目を奪われたのだ。そのあまりにも可愛らしい姿に、私は思わず立ち止まる。
「千早? どうかした?」
追い付いて来た帝も私の視線を追って――目を止めた。そこには――。
「猫!」
そう――私たちの行く先には、可愛らしい黒猫の姿があった。
私は無類の猫好きだ。というより、動物全般を愛している。
「ちょっと見てよ! あの子ジジにそっくりじゃない!?」
「……ジジ?」
「魔女の宅急便の!」
「……あー」
私はつい帝のことなど忘れ、猫に駆け寄った。すると大変嬉しいことに、猫も私の足にすりよって来る。
かっ……可愛い~!
だが帝は気に入らないようだ。彼は、「俺は猫以下かよ」などとブツブツ言いながら、不愉快そうに眉をひそめる。が、今は帝より猫だ。猫ちゃんは帝とは対照的に、機嫌良さそうにゴロゴロと喉を鳴らしてくれている。
それにしても、人慣れしているのだろうか。逃げるどころか、すり寄ってくるなんて。
「こいつ、飼い猫だよな」
帝も同じように感じたらしい。確かに首輪をしていることから、飼い猫であると思われる。
「そうだねぇ。猫ちゃんは、どこから来たのかなぁ~?」
私は興味本位で尋ねてみた。もちろん返事など期待していない。しかし……。
猫は私の質問に答えるように、ピョンと立ち上がったのだ。
「猫ちゃん……?」
更に猫は、私の呼びかけに対しにゃぉんと一鳴きすると、とてとてと歩き出す。
嘘、この子……!
「ね、ねぇ! 帝見た? 今の見た? あの子、私の言葉わかったみたい!」
私は帝を振り返り、猫を指差す。が、鼻で笑い飛ばされた。
「そんなんありえねぇって」
「でも、犬は言うことわかるって言うし!」
「……まぁ」
「とにかく、私はあの子を追いかけるから!」
「はあー? 本気かよ、もう夜だぞ」
「大丈夫! 帝は先に帰ってて」
「なっ……、千早が行くなら俺も行くし」
「なぁんだ、本当は帝も猫好きなんじゃん」
「はあ? 俺は千早を心配して」
「素直じゃないなぁ」
「だから、違うって」
そんな軽口を叩き合いながら、私と帝は小走りで猫を追いかけた。
◆◆◆
……それが、一体どうしてこんなことになってしまったのか。
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