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参◆小姓の仕事
七
しおりを挟む◇◇◇
それと同じ頃――土方と沖田の間でそんな会話が繰り広げられているとは露知らず、千早と日向は厨で洗い物をしながら会話を弾ませていた。今ここに居るのは二人だけな為か、さながら女子トークのようだ。
「ね、さっきの千早ちゃんの箸技、すごかったね」
「それはもう言わないで……」
「ふふっ、だってすごかったよ。あんなのどこで覚えたの?」
「どこって言われても……。日向って、実は結構いじわるだよね」
「そんなことないよ」
日向はクスクスと笑い声をあげる。
「だからもう笑わないでってば」
「ふふっ、はいはい、もう笑わない」
「……もう」
千早が口をとがらせると、日向はようやく笑うのをやめた。そして、何かを思い出したように手を止める。
「そう言えば私、来週から巡察にお供させてもらえるように土方さんに頼もうと思ってるんだけど、千早ちゃんは何か考えてる?」
「……巡察?」
――いったいそれはなんでしょうか。
そんな彼女の心の声が聞こえたのだろうか、日向は続ける。
「巡察っていうのは、京の治安を守る為に町を巡回することだよ。ほら、巡察に着いて行けば、父さまの情報を見つけられるかもしれないでしょう?」
――確かに、今のところまだ二人は外出を許されていない。万が一新選組に女が紛れ込んでいることが周りに知られてしまっては困るからだそうだ。が、確かに日向の言うとおり、このまま屯所ないで過ごしているだけでは何の情報も得られないだろう。
「……外、かぁ」
「うん、でも千早ちゃんは誰か探しているわけでもないもんね。あんなこともあったし、……無理して出ることないよ。ここにいれば安全だし」
「……そう、だよね。でも――」
そうだ。外に出ればこの時代のことを知ることが出来る。現状、自分が京の町を目にしたのは初日の夜のみで、明るい時間に見たことは一度もない。どうせなら、ここが本当に幕末であるということを自分の目できちんと確認しておきたい。それに帝が目覚めたとき、一つでも多く情報を知っている方がいいだろう。
彼女は考えて、決めた。
「私も行く」
「そう? じゃあ、後で一緒にお願いしに行こう?」
「うん。ありがとう日向」
――日向だってお父さんのことでいろいろと大変な思いをしているのに、こうしていつも自分を気にかけてくれる。本当に、感謝しなければ。
千早が日向にお礼を言うと、日向はいつものように微笑み返す。
「こちらこそ! じゃあまずはこの洗い物終わらせなきゃね!」
そうだった。彼女たちは今、洗い物のまっ最中なのである。二人のそばには、高く積みあがる皿の山。二人は気合を入れなおす。
「うん、そうだね! 頑張ろう!」
そうして二人は食器洗いに集中した。それぞれの目指す未来に、思いを馳せながら。
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