桜の花びら舞う夜に(毎週火・木・土20時頃更新予定)

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

文字の大きさ
上 下
36 / 158
参◆小姓の仕事

しおりを挟む

◇◇◇

「ちょ、新八っつぁん! それ俺の焼玉子!」
「お前は三つで十分だろ、平助。何てったって俺の方が体がデカいんだからよ!」
「はあっ!? それを言うなら俺は育ちざかりなんだから、俺のが沢山食うべきだ!」
「何言ってんだ、成長なんてとっくの昔に止まってるじゃねぇか!」
「なっ、何だとー!?」

 食事が始まると同時に、さっそくおかずの争奪戦が始まった。今平助と揉めているのは二番隊組長の永倉新八ながくらしんぱちである。歳は今年で二十五、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうな体格だ。沖田や斎藤と並ぶ剣術の腕の持ち主だそうで、撃剣師範を務めているという。

「毎日毎日よく飽きないよねー」
 沖田はそんな二人を横目で見ながら、淡々と納豆汁をすすっていた。いつも五月蠅うるさいと怒鳴る土方も食事の時にはあまり口を出さない。どうやら、何を言っても無駄だと諦めているようだ。

「もう、永倉さんも平助くんも、そんなに急いで食べなくても」
 けれど日向はその言葉とは裏腹に、どういうわけか嬉しそうだ。
 そう言えば、日向は病気の母と二人暮らしだった為に食事はいつも一人でとっていたらしい。きっと大勢で食事をとれることが嬉しいのだろう。

 そんな皆の様子を伺いながら、千早も沖田の隣で味噌汁をすする。千早はなるべく皆の話の輪に入らないように努めていた。話を振られれば返すが、うっかりボロを出してしまっては元も子もないからだ。用心するに越したことはない。

 ――彼女は無言で食事を口に運びながら、元いた時代について思いをせる。
 今頃家族はどうしているだろうか、親は、兄弟は、そして友人は。いや、そもそもここは過去なのだ。ということは、まだ自分たちのいた時代は存在していないということになるのだろうか? それともここはただの過去ではなく別の世界線……つまり並行世界だったり? 確か、そういうゲームが数年前に発売していたような。自分はやっていないけれど、兄がやっていたような気がしないでもない。

 彼女がそんなことを考えていると、突然自分の視界に誰かの箸が飛び込んで来た。

「もーらいっ!」
 そう言って、千早の皿から焼玉子を一つさらおうとするのは平助だ。その姿が弟に重なって、彼女は思わず自分の箸で平助の箸を挟みこみ、ぐいっとひねっていた。ついでに、「こら、駄目でしょ」という、まるで冷静な注意付きで。
 それは反射的な行動だったが、突然の千早の変わりように平助はあっけに取られたらしい。「す……すみません」と急に大人しくなって、彼は自分の席に座りなおしたのである。

 その光景を見ていた一同は驚いた。その場は一瞬静まり返り――その沈黙を不思議に思った千早が顔を上げれば、どういうわけか皆の視線が自分に注がれているではないか。

「――え。私……何か?」
 千早が何事もなかったように呟くので、今度こそ皆は吹き出した。

「ぶ……っ、あっははははは!!」
 永倉の豪快な声が部屋に響く。

「ひっ、あっははは、佐倉お前、実は面白い奴だったんだな! そんな特技あったのかよッ!」
 彼は腹をかかえて笑いだす。

「え……ええ? そこまでですか?」
「確かに……早業だったな」
 寡黙な斎藤までも口元を歪ませていた。

「……っ、ひ、……日向」
 そんな皆の様子に、千早が日向に助けを求めようとすれば、彼女までもが口を手で押さえて笑いを堪えている。

 ――あぁ、最悪だ。

 そしてそんな彼ら一同に、こめかみを痙攣けいれんさせるのは――土方。勿論その直後には、怒鳴り声。

「だあああッ! 笑ってねぇでてめェらさっさと食ええッ!!」

 ――こうして早くも、本日二度目の土方の罵声が屯所内にとどろいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

処理中です...