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弐◆今、私に出来ること
十
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その後、千早は沖田の部屋に連れて来られた。さっそく小姓の仕事を説明すると言われたからだ。
そこは六畳の和室だった。平隊士は合同部屋だが、幹部には一人一部屋が与えられているらしい。ちなみに沖田は一番隊組長で、斎藤は三番隊組長だという。他の幹部は後ほど紹介するとのことだった。
沖田は千早と共に部屋に入り、戸を閉めるとこう言った。
「さて、では君に小姓の仕事を説明しようと思うんだけど」
「はい」
「まずはそこに座ってくれる?」
千早は沖田の指示に従い、部屋の中央に正座した。すると沖田もその前に腰を下ろす。そして、じっと千早を見つめた。
そのどこか舐めるような視線に、千早は思わず身を固める。
「……沖田さん?」
――やっぱり、この人苦手だ。
千早はすぐにそう思った。初めて会ったときから今までずっと、この沖田という人間が何を考えているのか見当もつかないからだ。それに千早は気が付いていた。自分も沖田をよく思っていないが、沖田の方も自分をよく思っていないということに。会話などせずともそれくらいのことはわかる。
にもかかわらず、沖田は自分を小姓にした。だから千早は、沖田はきっと自分をこき使うつもりで小姓にしたのだろうと身構えていた。
「君の小姓としての仕事はね――」
沖田は微笑む。千早はゴクリと喉をならした。
「毎朝六時半に、僕を起こしにくること」
「…………え?」
「六時半。早すぎる?」
「――いえ。……え、それだけ?」
「うん。それだけ」
「…………」
それは予想外の内容だった。まさか小姓の仕事がそれだけとは、一体どうして。
千早が唖然としていると、沖田はふふっと少女のように笑う。
「だって僕、大概のことは自分で出来るし、今さら誰かに手伝ってもらうようなことないんだよね。土方さんみたいにお偉いさんに会うこともないし」
「……そう、なんですか」
「うん。――あ、だけど勘違いしないでね? 小姓の仕事はそれだけだけど、炊事、洗濯、掃除なんかは当番制で毎日何かしら仕事はあるし、君は剣道の腕がいいから隊士たちの稽古の相手になってもらうから」
「……それは勿論、するつもりでいましたけど。でも、ならどうして私を小姓に?」
千早は内心驚いていた。勿論彼女は沖田の言うように家事全般はするつもりでいたし、覚悟していた。それだけでもきっと自分には一杯いっぱいであろうと想像もしていた。だが、そこに小姓の仕事が加わる――そうなったとき、自分はどこまでやれるだろうかと不安に思っていたのだ。だが、小姓の仕事はほぼないと言っていい……。もしや、沖田はこう見えて意外と善良な人間なのだろうか――と、彼女が安堵したのも束の間。
「ごめん、今のは嘘」――と、沖田は突然先の言葉を撤回したのである。
「え、――嘘?」
千早はすぐに聞き返した。彼女の胸によぎる一抹の不安。そしてその意味を、彼女はすぐに知ることになる。
「君の小姓としての仕事はね――」
そう呟いて、沖田はニヤリと嗤った。その顔が一瞬で千早の眼前に迫る。そして次の瞬間には――。
「――んんッ」
彼女の唇は、沖田の唇にふさがれていた。
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