桜の花びら舞う夜に(毎週火・木・土20時頃更新予定)

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

文字の大きさ
上 下
30 / 158
弐◆今、私に出来ること

しおりを挟む
 
◇◇◇

 その後、千早は沖田の部屋に連れて来られた。さっそく小姓の仕事を説明すると言われたからだ。
 そこは六畳の和室だった。平隊士は合同部屋だが、幹部には一人一部屋が与えられているらしい。ちなみに沖田は一番隊組長で、斎藤は三番隊組長だという。他の幹部は後ほど紹介するとのことだった。

 沖田は千早と共に部屋に入り、戸を閉めるとこう言った。

「さて、では君に小姓の仕事を説明しようと思うんだけど」
「はい」
「まずはそこに座ってくれる?」
 千早は沖田の指示に従い、部屋の中央に正座した。すると沖田もその前に腰を下ろす。そして、じっと千早を見つめた。
 そのどこか舐めるような視線に、千早は思わず身を固める。

「……沖田さん?」
 ――やっぱり、この人苦手だ。
 千早はすぐにそう思った。初めて会ったときから今までずっと、この沖田という人間が何を考えているのか見当もつかないからだ。それに千早は気が付いていた。自分も沖田をよく思っていないが、沖田の方も自分をよく思っていないということに。会話などせずともそれくらいのことはわかる。
 にもかかわらず、沖田は自分を小姓にした。だから千早は、沖田はきっと自分をこき使うつもりで小姓にしたのだろうと身構えていた。

「君の小姓としての仕事はね――」
 沖田は微笑む。千早はゴクリと喉をならした。

「毎朝六時半に、僕を起こしにくること」
「…………え?」
「六時半。早すぎる?」
「――いえ。……え、それだけ?」
「うん。それだけ」
「…………」
 それは予想外の内容だった。まさか小姓の仕事がそれだけとは、一体どうして。

 千早が唖然としていると、沖田はふふっと少女のように笑う。

「だって僕、大概のことは自分で出来るし、今さら誰かに手伝ってもらうようなことないんだよね。土方さんみたいにお偉いさんに会うこともないし」
「……そう、なんですか」
「うん。――あ、だけど勘違いしないでね? 小姓の仕事はそれだけだけど、炊事、洗濯、掃除なんかは当番制で毎日何かしら仕事はあるし、君は剣道の腕がいいから隊士たちの稽古の相手になってもらうから」
「……それは勿論、するつもりでいましたけど。でも、ならどうして私を小姓に?」
 千早は内心驚いていた。勿論彼女は沖田の言うように家事全般はするつもりでいたし、覚悟していた。それだけでもきっと自分には一杯いっぱいであろうと想像もしていた。だが、そこに小姓の仕事が加わる――そうなったとき、自分はどこまでやれるだろうかと不安に思っていたのだ。だが、小姓の仕事はほぼないと言っていい……。もしや、沖田はこう見えて意外と善良な人間なのだろうか――と、彼女が安堵したのも束の間。

「ごめん、今のは嘘」――と、沖田は突然先の言葉を撤回したのである。

「え、――嘘?」
 千早はすぐに聞き返した。彼女の胸によぎる一抹の不安。そしてその意味を、彼女はすぐに知ることになる。

「君の小姓としての仕事はね――」
 そう呟いて、沖田はニヤリと嗤った。その顔が一瞬で千早の眼前に迫る。そして次の瞬間には――。

「――んんッ」
 彼女の唇は、沖田の唇にふさがれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

一陣茜の短編集

一陣茜
ライト文芸
短い物語を少しずつ、ずっと増やしていきます。 気になったタイトルから、好きな順番で、自由に。 どこからでも。お好きなように。お読みください。 感想も受け付けております。 お気に入り登録、いいね、をしてくださった読者様。 また、通りすがりにページをめくってくださった読者様。 直接言えないのが、とても悔やまれます。 「私と出会ってくれて、ありがとう」 一陣 茜 *本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...