桜の花びら舞う夜に(毎週火・木・土20時頃更新予定)

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

文字の大きさ
上 下
27 / 158
弐◆今、私に出来ること

しおりを挟む

◇◇◇

 あぁ、困ったものだ――と、近藤は頭を悩ませていた。自分に痛い程の視線を送ってくるこの千早という少女。彼女の処遇を、一体どうするべきだろうか、と。

 そこは近藤の部屋だった。中庭に面した部屋の内、最も奥の八畳の京間。床の間には掛け軸と刀が飾られている。
 普段は開け放たれたままの障子戸は、今現在きっちりと閉められていた。外に声が漏れないようにする為だ。

「ううむ、それで……だが」
 近藤は呻くように呟いて、隣を見やる。そこには、そもそもこんな場が設けられること自体が不本意だ、と言いたげな様子で胡坐あぐらをかく土方の姿が。

 ――そもそも近藤が斎藤の頼みを呑んだのは、千早が勝つなど一分の可能性もないと思っていたからだった。無論それは斎藤本人とて同じであっただろう。まぁ、勝負を持ちかけた斎藤からすれば、それはそれで面白いとも思っていたのかもしれないが。

 近藤は両目を固く閉じて悩む。
 武士に二言はない、とはいえ、こんな年端も行かぬ少女を新選組の隊士として迎え入れるなど、考えられないことだった。そもそも女という点が問題なのだ。これが男であったなら、喜び勇んで迎え入れただろうに……。
 こうなってしまうと、彼女が女であることが惜しいとまで考えてしまう。いっそ彼女も性別を隠し、誰かの小姓こしょうにでもしてしまうか。昨晩幹部の面々と話し合った末、日向は男として土方の小姓にするということで話がまとまった。まだ日向本人には伝えていないが――まぁ、もう一人女がいた方が日向も心強いであろう。

 いや、だがしかし――と考える。土方は納得しないであろう、と。

 近藤は瞼を上げた。下座に座る千早と斎藤を見比べ……そして隣の土方の不機嫌そうなオーラを感じ取って深い息を吐く。

 自分の考えがまともではないことは自覚していた。女は隊士にはなれない、という当たり前のことを覆そうと考えること自体どうかしているのだ。――が、ともかく彼は時間稼ぎの為、斎藤の意見を聞くことに決める。

「えー……その、まずは斎藤の意見を一つ聞かせてくれるか。佐倉君と剣を交えて、どう感じた」
「無論、私は真剣にこの試合に挑みました。結果、負けたのは私です。武士に二言はありません。佐倉君を隊士として迎え入れるべきかと」
「……うむ」

 瞬間、彼は後悔した。――しまった、斎藤に意見を聞いたのが間違いだった、と。
 どういうわけか、斎藤はこの佐倉千早という少女に興味を持ってしまったらしい。勿論それは千早が異性だからなどという不純な理由ではなく、彼女に剣術の才能を見出したから、であるのだろうが。

 そんなやり取りに痺れを切らしたのか、今度は土方が問う。
「佐倉と言ったな。お前、刀は握ったことがあるのか」
「ありません」
 土方の眉がピクリと動き、「やはりな」と呟いた。が、斎藤はこれに疑問をていす。そもそも新選組に武家の者は少ない。実際、入隊するまで刀を握ったことのない者も多いのだ。つまり、それ自体はそれほど問題ではない。

「それに――お言葉ですが、副長。佐倉君の剣道の強さは本物です。刀を扱ったことがないとはいえ、木刀は刀と同等の重さ。訓練すればすぐに、自分の身ぐらいは守れるようになるでしょう」
 けれど土方は引き下がらない。 
「刀を扱うのと人を斬るのは全くの別物だ。それはお前が一番よくわかってるんじゃねぇのか、斎藤」
「……それは」
「俺にはこの女に、人を斬る覚悟があるとは思えない。そんな奴を隊士にするわけにはいかねェんだよ。周りにも迷惑だ」
 確かに土方の言葉は正しい。
 実際問題、千早に人を斬れるとは思えない。それは千早本人も強く自覚していた。自分が守りたいのは帝であって、新選組でも――この町でもないのだ。

 しかしだからと言って、ここまで来て引き下がるわけにはいかない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...