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弐◆今、私に出来ること
七
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あぁ、困ったものだ――と、近藤は頭を悩ませていた。自分に痛い程の視線を送ってくるこの千早という少女。彼女の処遇を、一体どうするべきだろうか、と。
そこは近藤の部屋だった。中庭に面した部屋の内、最も奥の八畳の京間。床の間には掛け軸と刀が飾られている。
普段は開け放たれたままの障子戸は、今現在きっちりと閉められていた。外に声が漏れないようにする為だ。
「ううむ、それで……だが」
近藤は呻くように呟いて、隣を見やる。そこには、そもそもこんな場が設けられること自体が不本意だ、と言いたげな様子で胡坐をかく土方の姿が。
――そもそも近藤が斎藤の頼みを呑んだのは、千早が勝つなど一分の可能性もないと思っていたからだった。無論それは斎藤本人とて同じであっただろう。まぁ、勝負を持ちかけた斎藤からすれば、それはそれで面白いとも思っていたのかもしれないが。
近藤は両目を固く閉じて悩む。
武士に二言はない、とはいえ、こんな年端も行かぬ少女を新選組の隊士として迎え入れるなど、考えられないことだった。そもそも女という点が問題なのだ。これが男であったなら、喜び勇んで迎え入れただろうに……。
こうなってしまうと、彼女が女であることが惜しいとまで考えてしまう。いっそ彼女も性別を隠し、誰かの小姓にでもしてしまうか。昨晩幹部の面々と話し合った末、日向は男として土方の小姓にするということで話がまとまった。まだ日向本人には伝えていないが――まぁ、もう一人女がいた方が日向も心強いであろう。
いや、だがしかし――と考える。土方は納得しないであろう、と。
近藤は瞼を上げた。下座に座る千早と斎藤を見比べ……そして隣の土方の不機嫌そうなオーラを感じ取って深い息を吐く。
自分の考えがまともではないことは自覚していた。女は隊士にはなれない、という当たり前のことを覆そうと考えること自体どうかしているのだ。――が、ともかく彼は時間稼ぎの為、斎藤の意見を聞くことに決める。
「えー……その、まずは斎藤の意見を一つ聞かせてくれるか。佐倉君と剣を交えて、どう感じた」
「無論、私は真剣にこの試合に挑みました。結果、負けたのは私です。武士に二言はありません。佐倉君を隊士として迎え入れるべきかと」
「……うむ」
瞬間、彼は後悔した。――しまった、斎藤に意見を聞いたのが間違いだった、と。
どういうわけか、斎藤はこの佐倉千早という少女に興味を持ってしまったらしい。勿論それは千早が異性だからなどという不純な理由ではなく、彼女に剣術の才能を見出したから、であるのだろうが。
そんなやり取りに痺れを切らしたのか、今度は土方が問う。
「佐倉と言ったな。お前、刀は握ったことがあるのか」
「ありません」
土方の眉がピクリと動き、「やはりな」と呟いた。が、斎藤はこれに疑問を呈す。そもそも新選組に武家の者は少ない。実際、入隊するまで刀を握ったことのない者も多いのだ。つまり、それ自体はそれほど問題ではない。
「それに――お言葉ですが、副長。佐倉君の剣道の強さは本物です。刀を扱ったことがないとはいえ、木刀は刀と同等の重さ。訓練すればすぐに、自分の身ぐらいは守れるようになるでしょう」
けれど土方は引き下がらない。
「刀を扱うのと人を斬るのは全くの別物だ。それはお前が一番よくわかってるんじゃねぇのか、斎藤」
「……それは」
「俺にはこの女に、人を斬る覚悟があるとは思えない。そんな奴を隊士にするわけにはいかねェんだよ。周りにも迷惑だ」
確かに土方の言葉は正しい。
実際問題、千早に人を斬れるとは思えない。それは千早本人も強く自覚していた。自分が守りたいのは帝であって、新選組でも――この町でもないのだ。
しかしだからと言って、ここまで来て引き下がるわけにはいかない。
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