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壱◆彼ら、新選組
十二
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「――っ」
刹那――今度こそ室内はざわめいた。やはり、皆日向のことを男だと思っていたのだ。当の本人も、どうしてわかったのか、と言いたげに口を大きく開けている。
「お、お……おなごだったのか!?」
だが、それ以上に驚いているのは近藤だ。彼は急に日向に同情心が芽生えたように、両目を酷く潤ませる。
そんな周りの反応に、日向も観念したのだろう。「実は自分は女だ」とそう言って、とうとう俯いてしまった。これでもう、自分はここを追い出されるしかないのだろう、と。
だが、どういうわけだろうか。土方は彼女を責めるようなことは言わない。――それどころか、こんなことを言い出した。
「いいだろう。父親が見つかるまでの期限付きで、お前をここで保護してやる」――と。
「本当ですか!?」
日向は途端に顔を明るくする。
――が、その場の日向以外の誰もが知っていた。これはそんな生易しい話ではないということを。日向を保護するというのは、ただの監視目的であることを。
だが、日向はそれに気付いていない。恐らくこの少女は、自分が人質なのだとは露にも思わないのだ。
「でも……どうして。だって父は……」
「あのなぁ、俺達だって好きで仲間に切腹させてるんじゃねェ。お前の父親だってそうだ。見つかれば確かに切腹は免れねぇだろうが、最後の時くらいは親子水入らずで過ごさせてやるって言ってるんだよ」
土方の表情は真剣だった。だが決して本音ではない。しかし日向にはこれで十分だった。この言葉だけで、十分に事足りた。
「ありがとうございます!……では、私だけじゃなくて、この方たちも保護していただけませんか?」
「あぁ!?」
が、その直後、日向は再び信じられないことを口にする。
「お願いします! この方たちは私の命の恩人です! この方が助けて下さらなかったら、きっと今頃私は死んでいました!」
そう言って、日向はその場で頭を下げた。
――ああ、彼女は何というお人よしなのか。自分が助かると知ったとたん、今度は他人の心配とは。
日向は、千早と帝も保護してくれと言ったのだ。
だが千早にはわかっていた。新選組に、自分たちを保護する理由も義理もないことは。
彼は、低い声で告げる。
「もういい、これ以上は聞きたくない」
「……と、トシ」
「斎藤、こいつらを連れて行け」
「……ああ」
「沙汰は追って下す……行け」
――結局、何の答えも出されないまま千早は日向と共に部屋を追い出された。
そうして、斎藤に背後から監視されながら、もといた部屋へ戻るため縁側を歩く。
その足取りは重かった。
これから自分は、帝はどうなってしまうのか――そう思うと、千早は気が気ではいられなかった。
しかしそれでも、彼女は決意する。
帝が生きていると知った今、必ずこの苦境を乗り越えなければならないと。そして絶対に、帝と共に元いた時代に戻ってみせる――と。
◇◇◇
――こうして、千早と帝の長い長い幕末生活が始まったのである。
刹那――今度こそ室内はざわめいた。やはり、皆日向のことを男だと思っていたのだ。当の本人も、どうしてわかったのか、と言いたげに口を大きく開けている。
「お、お……おなごだったのか!?」
だが、それ以上に驚いているのは近藤だ。彼は急に日向に同情心が芽生えたように、両目を酷く潤ませる。
そんな周りの反応に、日向も観念したのだろう。「実は自分は女だ」とそう言って、とうとう俯いてしまった。これでもう、自分はここを追い出されるしかないのだろう、と。
だが、どういうわけだろうか。土方は彼女を責めるようなことは言わない。――それどころか、こんなことを言い出した。
「いいだろう。父親が見つかるまでの期限付きで、お前をここで保護してやる」――と。
「本当ですか!?」
日向は途端に顔を明るくする。
――が、その場の日向以外の誰もが知っていた。これはそんな生易しい話ではないということを。日向を保護するというのは、ただの監視目的であることを。
だが、日向はそれに気付いていない。恐らくこの少女は、自分が人質なのだとは露にも思わないのだ。
「でも……どうして。だって父は……」
「あのなぁ、俺達だって好きで仲間に切腹させてるんじゃねェ。お前の父親だってそうだ。見つかれば確かに切腹は免れねぇだろうが、最後の時くらいは親子水入らずで過ごさせてやるって言ってるんだよ」
土方の表情は真剣だった。だが決して本音ではない。しかし日向にはこれで十分だった。この言葉だけで、十分に事足りた。
「ありがとうございます!……では、私だけじゃなくて、この方たちも保護していただけませんか?」
「あぁ!?」
が、その直後、日向は再び信じられないことを口にする。
「お願いします! この方たちは私の命の恩人です! この方が助けて下さらなかったら、きっと今頃私は死んでいました!」
そう言って、日向はその場で頭を下げた。
――ああ、彼女は何というお人よしなのか。自分が助かると知ったとたん、今度は他人の心配とは。
日向は、千早と帝も保護してくれと言ったのだ。
だが千早にはわかっていた。新選組に、自分たちを保護する理由も義理もないことは。
彼は、低い声で告げる。
「もういい、これ以上は聞きたくない」
「……と、トシ」
「斎藤、こいつらを連れて行け」
「……ああ」
「沙汰は追って下す……行け」
――結局、何の答えも出されないまま千早は日向と共に部屋を追い出された。
そうして、斎藤に背後から監視されながら、もといた部屋へ戻るため縁側を歩く。
その足取りは重かった。
これから自分は、帝はどうなってしまうのか――そう思うと、千早は気が気ではいられなかった。
しかしそれでも、彼女は決意する。
帝が生きていると知った今、必ずこの苦境を乗り越えなければならないと。そして絶対に、帝と共に元いた時代に戻ってみせる――と。
◇◇◇
――こうして、千早と帝の長い長い幕末生活が始まったのである。
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