桜の花びら舞う夜に(毎週火・木・土20時頃更新予定)

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

文字の大きさ
上 下
14 / 158
壱◆彼ら、新選組

しおりを挟む
◇◇◇

「おい総司、めったなことは言うもんじゃねぇ」
「そうだ、あの青年はまだ生きているだろう」
「君、少し落ち着きなさい。総司、もう少しこの子の気持ちを考えてあげられないのか」

 沖田の心無い言葉に泣き出してしまった千早を前に、流石の彼らも心が痛むようである。彼らは口々に沖田を非難し、どうにかして千早をなだめようとした。
 けれど沖田はそれが気に入らないようだ。

「だってほんとのことじゃないですか。あれじゃあ死んでるのと変わりませんよ」
 彼は不本意だと言わんばかりに口を尖らせる。

 だがしかし、このやり取りさえ千早には聞こえていなかった。帝が死んでしまったと聞いて、もはや彼女は自分を見失っていた。
 新選組の面々は、お前が悪いと言わんばかりに沖田をじろりと見やる。その視線と――そしてあまりに痛々しい千早の姿に、流石の沖田も謝罪しようと口を開いた。

「すみませんでした。僕が悪かったですよ、だからもう泣かないでくださいって」
 だが、その言葉さえ千早には聞こえていないようだ。

 その証拠に、彼女は今まで項垂れていた顔を上げると、静かな声でこう告げたのだ。

「私を、殺してくれませんか」――と。

「……は?」
 その言葉に、沖田は今度こそ唖然とした。殺してくれと、今この娘はそう言ったのか? ――それほどまでにあの男を愛しているとでも? 後追いでもする気か? そんなこと言って、実際死ぬとなれば抵抗するに決まっているのだ。馬鹿らしい。
 ――そんな風に思った。だが、その考えはすぐに覆される。

 自分を見据える千早の瞳から、一切の生気が失われていたからだ。ドロリとした瞳からは、すべての色が消えている。――ただの冗談かと思っていたのに、その言葉が本気であると気づいた沖田は、どういう訳か怒りすら感じていた。

「君、本当に死にたいの?」
 沖田が尋ねれば、千早はこくりと頷いた。相手の男が生きている、という言葉は聞こえないのに、死にたいか、という言葉には反応するとは一体どういう了見なんだ。沖田は顔をしかめる。

「土方さん」
「何だ」
「どうしましょう。なんだか僕、すっごくイライラするんですけど」
「……」
「何なんですかね。この娘、僕らのことなめてるんですかね」

 沖田はぼそぼそと呟く。せっかく生かしておいてやったのに、今さら死にたいなどと……。

「僕――いいですか? 斬っても」
 沖田は問う。だが、土方は首を振った。

「いや、俺がやる」
「……え?」
 土方は沖田を制止し、しびれをきらしたように立ち上がる。そして静かに刀を抜いた。

「お、おい、トシ……?」
 さすがの近藤もこれにはたじろいだ。まさかこんな室内で、しかも相手は女だぞ――と。

「土方君! やめて下さい!」
 山南も止めに入る。――が、土方は聞かない。彼は皆の制止を振り切り、千早と、それを庇う日向を見下ろした。そこに浮かべられるのは、人斬りの顔――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...