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壱◆彼ら、新選組
五
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一通り名前の紹介を終えると、近藤が口を開く。
「では、昨夜の話を聞かせてもらおうか」――と。
その言葉に、まずは斎藤が答える。
「昨夜、京の町を巡回中に不定浪士と遭遇。相手が刀を抜いたため、斬り合いになりました。そこに居合わせたのが彼らです」
そして今度は土方だ。
「てめぇら、夜の町で何をしていた。夜の京は危険なんだぞ、不定浪士がゴロゴロしてやがる。まさか知らないわけじゃねェだろ」
土方はそう言って、睨むように二人を見据えた。
だが、千早はそんなこと知る由もない。それにこっちだって、ウロウロしたくてしていたわけではないのだ。
何と答えるべきか悩んだ千早は、日向の様子を伺った。すると彼女が先に答えてくれる。
「私、昨夜京に着いたばかりでそんなこと知らなかったんです。そしたら見知らぬ男たちに襲われて……。それを、佐倉さんたちが助けて下さったんです。ただそれだけです。何もいかがわしいことなんて」
その言葉に、近藤は「ふむ」と唸る。そして、「では君は」と続けた。
「私……私は……」
千早は言いよどむ。だって、一体何と言ったらいいのか。未来から来ましたなんて言うことは出来ない。かと言って、おかしな言い訳をしたら殺されてしまうかもしれない。――なら、まずは先にこれだけ聞いておかなければ。
千早は決意する。
「あの……私と一緒にいた、男の子、いましたよね……? 彼、今どこにいますか? 私の大切な人なんです」
その声は震えていた。声だけではない。手と奥歯も震えているし、足先と指先が酷く冷たい。実際肌寒いことも理由の一つだが、何よりも緊張から来るものであるのは明白だ。帝の生死を知らされる――その緊張に。
千早は膝の上の拳を握り締め俯いた。沈黙が怖かった。帝が死んでしまっていたらどうしようと……もしもそうだったら、私はどうしたらいいのかと、そればかりが頭に浮かんだ。彼の後を追って、自分も死ぬしかないとまで考えていた。
そんな千早のただならぬ様子に、周りも流石に気づいたのだろう。お互い顔を見合わせてやや困ったように合図を取り合っていた。――そう、ただ一人を除いては。
「彼、死んだよ」
――そう言ったのは沖田総司だった。その言葉に打たれたように顔を上げた千早の視界に映るのは、自分を蔑むように見つめる沖田の顔。
そして、そんな沖田の言葉に顔をしかめる周りの面々だった。
「…………え?」
千早はわけもわからず、茫然と呟く。
「だからぁ、死んだって」
「……嘘」
「嘘なんてついてどうするの」
「嘘、そんなの嘘! だって……だって帝はずっと私と一緒にいてくれるって言ったもの!」
「……帝?」
千早の叫びに、けれどその内容よりも、帝という名前に彼らは眉をひそめた。が、今の千早にはそんなことに構っていられる余裕はない。
「お願い、帝に合わせて。ここにいるんでしょう? まだ生きてるでしょう?」
擦れる声で呟いて、彼女はその場に立ち上がろうとする。けれど結局それは叶わず、身体に力の入らない様子の彼女は、再びその場にへたり込んだ。
「……私のせいだ。私のせいで……帝が。――私が、私があんなこと言ったから」
――言わなければ良かった。猫を追いかけようなんて、言わなければ良かった。そうしたら、こんなことにはならなかったのに……。
そう――彼女は独り言のように呟いて、溢れんばかりの涙を流す。もはや彼女には、周りの声は一切聞こえていない。
沖田の先の言葉が、誤りであったのだというその言葉さえ――。
「では、昨夜の話を聞かせてもらおうか」――と。
その言葉に、まずは斎藤が答える。
「昨夜、京の町を巡回中に不定浪士と遭遇。相手が刀を抜いたため、斬り合いになりました。そこに居合わせたのが彼らです」
そして今度は土方だ。
「てめぇら、夜の町で何をしていた。夜の京は危険なんだぞ、不定浪士がゴロゴロしてやがる。まさか知らないわけじゃねェだろ」
土方はそう言って、睨むように二人を見据えた。
だが、千早はそんなこと知る由もない。それにこっちだって、ウロウロしたくてしていたわけではないのだ。
何と答えるべきか悩んだ千早は、日向の様子を伺った。すると彼女が先に答えてくれる。
「私、昨夜京に着いたばかりでそんなこと知らなかったんです。そしたら見知らぬ男たちに襲われて……。それを、佐倉さんたちが助けて下さったんです。ただそれだけです。何もいかがわしいことなんて」
その言葉に、近藤は「ふむ」と唸る。そして、「では君は」と続けた。
「私……私は……」
千早は言いよどむ。だって、一体何と言ったらいいのか。未来から来ましたなんて言うことは出来ない。かと言って、おかしな言い訳をしたら殺されてしまうかもしれない。――なら、まずは先にこれだけ聞いておかなければ。
千早は決意する。
「あの……私と一緒にいた、男の子、いましたよね……? 彼、今どこにいますか? 私の大切な人なんです」
その声は震えていた。声だけではない。手と奥歯も震えているし、足先と指先が酷く冷たい。実際肌寒いことも理由の一つだが、何よりも緊張から来るものであるのは明白だ。帝の生死を知らされる――その緊張に。
千早は膝の上の拳を握り締め俯いた。沈黙が怖かった。帝が死んでしまっていたらどうしようと……もしもそうだったら、私はどうしたらいいのかと、そればかりが頭に浮かんだ。彼の後を追って、自分も死ぬしかないとまで考えていた。
そんな千早のただならぬ様子に、周りも流石に気づいたのだろう。お互い顔を見合わせてやや困ったように合図を取り合っていた。――そう、ただ一人を除いては。
「彼、死んだよ」
――そう言ったのは沖田総司だった。その言葉に打たれたように顔を上げた千早の視界に映るのは、自分を蔑むように見つめる沖田の顔。
そして、そんな沖田の言葉に顔をしかめる周りの面々だった。
「…………え?」
千早はわけもわからず、茫然と呟く。
「だからぁ、死んだって」
「……嘘」
「嘘なんてついてどうするの」
「嘘、そんなの嘘! だって……だって帝はずっと私と一緒にいてくれるって言ったもの!」
「……帝?」
千早の叫びに、けれどその内容よりも、帝という名前に彼らは眉をひそめた。が、今の千早にはそんなことに構っていられる余裕はない。
「お願い、帝に合わせて。ここにいるんでしょう? まだ生きてるでしょう?」
擦れる声で呟いて、彼女はその場に立ち上がろうとする。けれど結局それは叶わず、身体に力の入らない様子の彼女は、再びその場にへたり込んだ。
「……私のせいだ。私のせいで……帝が。――私が、私があんなこと言ったから」
――言わなければ良かった。猫を追いかけようなんて、言わなければ良かった。そうしたら、こんなことにはならなかったのに……。
そう――彼女は独り言のように呟いて、溢れんばかりの涙を流す。もはや彼女には、周りの声は一切聞こえていない。
沖田の先の言葉が、誤りであったのだというその言葉さえ――。
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