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壱◆彼ら、新選組

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「ん……、朝……?」
 千早が目を開ければ、そこはいつもの彼女の部屋ではなかく、6畳程の見慣れない和室だった。障子戸の向こうから、ぼんやりとした柔らかい光が部屋に降り注いでいる。

「……どこ、ここ」
 千早はまず茫然とした。自分の部屋どころか、ここは自分の家ですらない。全く知らない場所にいるというこの状況に。そして――。

「帝……!」
 彼女は昨夜の出来事を思い出し、思わずその名前を叫んだ。怪我をした帝の変わり果てた姿――それだけを思い出して。
 彼女は立ち上がろうと身体に力を込める。部屋の中には帝はいない。居るのは、昨日助けた女の子一人だけ。ならば帝はどこ行ったのだ、一刻も早く探し出さなければならない、と。
 だが、それは叶わなかった。立ち上がろうとした彼女は、バランスを崩して畳に倒れ込む。

「……痛」
 彼女は愕然とした。なんと両手が背中で縛られているではないか。それも、ちょっと縛られている、くらいの話ではない。テレビで悪党がお縄になるようなシーンばりに、きつくきつく縛られている。全く身動きが取れないと言う程ではないが、自力で抜けるのは不可能だ。それに、恐らく昨夜ついた傷だろう。制服のスカートから出た自分の両ひざは痛々しく擦りむけ、血が滲んでいた。それも砂がついたままの状態で、だ。

「……嘘」
 それは自分の怪我についての言葉ではなかった。この場から決して動けないことを悟った絶望からの言葉だった。このままでは、帝を探すなんて不可能だ。それどころか、自分の身すら危うい。

「夢じゃ……なかった」
 夢であって欲しかった。夢であれと願っていた。昨夜の一件は全て悪い夢で、起きたら全て元通りだと――そうであって欲しいと願っていた。けれどその願いは打ち砕かれた。

 ああ、ならば一体何だと言うのだろう。ここは本当に自分たちのいた時代ではないのだと――そう信じるしか、諦めるしかないのだろうか。でもそんなこと、簡単に信じられる筈がない。
 
「……帝、どこにいるの」
 彼女は必死に思い出そうとした。昨夜の、変わり果てた姿の恋人を。――彼の傷は深かった。早く病院に連れていかなければならないというのに、自分がこんな状態ではそれは叶わない。それどころか無事であるかも怪しいのだ。あれだけの傷を負って無事でいられる筈がない。なのに、それどころかここが21世紀ではないなどと言うことになったら……。
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