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零◆始まり
七
しおりを挟む◇◇◇
――それはほんの一瞬だった。
もう逃げられないと、自分はもうここで死ぬのだと、そう思ったのと同時のことだった。
視界が一瞬にして赤く染まり――そして、消えた。男たちは、次の瞬間には冷たい地面に横たわり事切れていた。
音はなかった。ただ、頬に生温い液体が一筋飛んできたくらいだ。
「…………え」
広がる血だまり。それは帝の傷とは比べ物にならない深い傷。疑いようのない死の臭い。
――助けが、来た?
呆然と視線を上に向ければ、そこにはやはり着物姿の男が二人いた。既視感のある羽織りを着た男たちが。
そんな彼らは私たちには目もくれず、死体の身元を確かめているように見える。月明かりだけが頼りの暗闇の下で――全てが見えているかのように、あまりにも堂々と。
「うーん。この人たちは違うみたいですね」
「そうか」
「て言うか、こんな雑魚共僕一人で十分なのに」
「俺は任務を果たしたまでのこと」
「任務、任務って、本当に一君は真面目ですよね。と……そんなことよりさ、ねぇ君たち」
刹那、その男は私たちに視線を向けた。刀も仕舞わないまま、鋭い眼光を私に向ける。その視線の鋭さに、私は声を出すのも忘れて固まった。
言葉は丁寧なのに、恐ろしいのだ。さっきの男たちよりも、よっぽど強い殺気。あまりの畏怖に、震えさえも止まってしまう。
この人は――やばい。本能的にそう感じた。
男は私と帝と――そして隣の娘を見比べてわざとらしく首を傾げる。
「そっちの子はともかくさぁ、君、何者?」
「…………え」
尋ねられた意味がわからず、私は男を見返すことしかできない。
「だからさぁ、何者かって聞いてるの」
男の刀が私の眼前に据えられる。血に濡れた刀が……目の前に。
けど、私はもう何も言えなくなっていた。目の前で起きた出来事に、傷を負った帝に……私の頭は、すべての思考を停止していた。
「一君、この子たちどうします? 僕、殺っちゃっていいですか?」
それは酷く無邪気な声だった。けれど、とても冷たくて。同じ血のかよった人間だとは到底思えないほどに。
あぁ、きっと今この人は、私を見て笑ってるんだろうな――。私はそう直感した。僅かな月明かり――しかも逆光で、表情は見えないにも関わらず。けれど不誠実な物言いが、そう感じさせるのだ。
ああ、やっぱり私は死ぬんだな。そう思った。抗う気持ちすら湧いてこない。それは圧倒的な強者を目にしたときに感じる諦めにも似た気持ち。
私は今度こそ、自分の死を覚悟した。――なのに。
「いや、そいつらは屯所に連れて行く」
そう言ったのは一体誰なのか。一と呼ばれた男ではない。ならば、一体……。
だが、これで助かったと、今度こそそう思ってもいいのだろうか……?
「え、どうして? 殺っちゃえばいいじゃないですか、見られちゃったんですよ?」
「別に見られて困ることでもないだろう、おい、そこの女」
「土方さん?」
その声に呼ばれたように、突如として暗闇から姿を現した――土方と呼ばれた――男は続ける。
「声を出せば、斬る」
「――ッ」
瞬間、私は再び絶望した。ああそうか、やっぱり、助かったわけじゃないんだな、と。
そう思ったら、急に体に力が入らなくなった。瞼も重く、目を開けていられない。……眠くて、眠くて。
――そうして私は、そこで意識を手放した。
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