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零◆始まり
六
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見渡す限り続く暗闇の中、目の前に横たわる帝の身体。変わり果てた、帝の姿。私と、この娘を守ろうとして、斬られた……帝の……。
「……み……かど?」
私は帝の名前を読んだ。けれど、決して返事は返ってこなかった。それどころか、彼はピクリとも動かない。
「……嘘。……嘘だよね? こんなの、ただの夢だよね……?」
私はひたすら、帝の身体を揺り動かす。けれど、やっぱり返事は返ってこなかった。
――嫌だ、そんなはずない……こんなの有り得ない。有り得ないよ。
「……あっ……あぁ」
いやだ。いやだ。いやだいやだいやだ。助けて、助けて、誰か助けてよ!
暗闇の中で、帝の血に濡れた両手を凝視して――私は叫んだ。
助けて、誰か帝を助けて、と。
けれど、それに応えてくれる声はなかった。私の隣のこの娘も、ただ怯えてうずくまるばかりで、帝を助けてくれはしない。
――ああ、それなら何の為に、何の為に帝はこんな目に……!
私は絶望した。死にたくない、死にたくない、こんなところで死にたくない。
けれど、そんな私に追い打ちをかけるように、背後から忍び寄る二つの影。
「……次はお前らだ」
それは、帝を斬った男たち。暗闇の中で――否、雲に隠れた淡い月明かりの下で、着物姿の男たちは不気味に唇を歪ませる。
「……ひっ……や、ぁ……」
わからない、わからない、訳がわからない。どうして、一体どうして、何故……何故……。
「女を斬れるなんてゾクゾクするなぁおい……ッ!」
「あぁ、やべぇぜ、いい声で鳴けよ」
狂った男達が刀を片手に、私たちに迫りくる。帝だけでは飽きたらず――不気味な笑い声を上げ、意味不明な言葉を喚き散らしながら――既に帝の血で汚れた刀を、私たちに向かって振り上げる。
「……や……やだ」
嫌だ、こんなところで死ねない。死ねない……!
私は必死に周囲に目を配る。助けは来ない。ならば、どうしたらいいのか。
そう思ったとき、ふと目に入ったのは隣にうずくまったその娘の脇差し。あぁ、せめてこれならば――!
「貸して!」
瞬間、気付けば私はその脇差しを抜いていた。長さなんて足りない。立ち向かうなんて出来ない。でも、せめて身を守るくらいなら――!
だが、その考えは甘かった。震える右手で構えたそれは男の一太刀で一瞬にして払い落とされ、私は直ぐに丸腰になる。
「へへ。生きのいい女は嫌いじゃねぇぜ」
男のゲスな笑い声が不快に響く。でもそれはもう、現実ではないように思えていた。
だって、こんなのあり得ないことだから。あり得ないことなんだから。
「……っ」
だから私は、もう一度帝の身体を揺さぶった。きっと夢だから、全部全部夢だから。目が醒めればきっと、明日はいつもと同じ朝。……だから。
けれどそんな願いを嘲笑うように、彼に触れた私の手に感じるソレは、ドロリとした生温かい液体で。むせ返るような、強い鉄の臭いで……。ああ、それはやっぱり、紛れもない帝の血なのだ。
それは……赤よりもずっと紅い……。
「……何でっ、何でよぉ」
目が、チカチカする。
視界が、赤く染まる。
私の心を埋め尽くすのは、限りない恐怖と、底知れぬ絶望――。
「……み……か――」
私はもう、悟らざるを得なかった。真っ赤に染まった自分の手のひらに。
帝は、もう助からないと――。
「……やッ、いやぁああああッ!」
「……み……かど?」
私は帝の名前を読んだ。けれど、決して返事は返ってこなかった。それどころか、彼はピクリとも動かない。
「……嘘。……嘘だよね? こんなの、ただの夢だよね……?」
私はひたすら、帝の身体を揺り動かす。けれど、やっぱり返事は返ってこなかった。
――嫌だ、そんなはずない……こんなの有り得ない。有り得ないよ。
「……あっ……あぁ」
いやだ。いやだ。いやだいやだいやだ。助けて、助けて、誰か助けてよ!
暗闇の中で、帝の血に濡れた両手を凝視して――私は叫んだ。
助けて、誰か帝を助けて、と。
けれど、それに応えてくれる声はなかった。私の隣のこの娘も、ただ怯えてうずくまるばかりで、帝を助けてくれはしない。
――ああ、それなら何の為に、何の為に帝はこんな目に……!
私は絶望した。死にたくない、死にたくない、こんなところで死にたくない。
けれど、そんな私に追い打ちをかけるように、背後から忍び寄る二つの影。
「……次はお前らだ」
それは、帝を斬った男たち。暗闇の中で――否、雲に隠れた淡い月明かりの下で、着物姿の男たちは不気味に唇を歪ませる。
「……ひっ……や、ぁ……」
わからない、わからない、訳がわからない。どうして、一体どうして、何故……何故……。
「女を斬れるなんてゾクゾクするなぁおい……ッ!」
「あぁ、やべぇぜ、いい声で鳴けよ」
狂った男達が刀を片手に、私たちに迫りくる。帝だけでは飽きたらず――不気味な笑い声を上げ、意味不明な言葉を喚き散らしながら――既に帝の血で汚れた刀を、私たちに向かって振り上げる。
「……や……やだ」
嫌だ、こんなところで死ねない。死ねない……!
私は必死に周囲に目を配る。助けは来ない。ならば、どうしたらいいのか。
そう思ったとき、ふと目に入ったのは隣にうずくまったその娘の脇差し。あぁ、せめてこれならば――!
「貸して!」
瞬間、気付けば私はその脇差しを抜いていた。長さなんて足りない。立ち向かうなんて出来ない。でも、せめて身を守るくらいなら――!
だが、その考えは甘かった。震える右手で構えたそれは男の一太刀で一瞬にして払い落とされ、私は直ぐに丸腰になる。
「へへ。生きのいい女は嫌いじゃねぇぜ」
男のゲスな笑い声が不快に響く。でもそれはもう、現実ではないように思えていた。
だって、こんなのあり得ないことだから。あり得ないことなんだから。
「……っ」
だから私は、もう一度帝の身体を揺さぶった。きっと夢だから、全部全部夢だから。目が醒めればきっと、明日はいつもと同じ朝。……だから。
けれどそんな願いを嘲笑うように、彼に触れた私の手に感じるソレは、ドロリとした生温かい液体で。むせ返るような、強い鉄の臭いで……。ああ、それはやっぱり、紛れもない帝の血なのだ。
それは……赤よりもずっと紅い……。
「……何でっ、何でよぉ」
目が、チカチカする。
視界が、赤く染まる。
私の心を埋め尽くすのは、限りない恐怖と、底知れぬ絶望――。
「……み……か――」
私はもう、悟らざるを得なかった。真っ赤に染まった自分の手のひらに。
帝は、もう助からないと――。
「……やッ、いやぁああああッ!」
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