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第二部
63.ロレーヌ市場にて(前編)
しおりを挟むそれから一時間と少し後。
アレクシスとセドリック、及びジークフリートと近衛二名は、港町ロレーヌの中心部にある、ロレーヌ市場を訪れていた。
この市場は街のシンボルなだけあり、かなりの規模だ。
肉や魚、野菜などの生鮮食品を始め、陶磁器や織物、本や雑貨、美術品や楽器に至るまで、ありとあらゆる露店が通りのずっと先まで立ち並ぶ。
客層は平民から貴族、商人、軍人、外人などさまざまで、アレクシスやジークフリートの正体を気にする者はいない。
そのため、一見して気楽な物見遊山――かと思いきや。
セドリックは、市場を興味深そうに散策するジークフリートと、単独で買い食いしながら自由に動き回るアレクシスの背中。それを交互に眺めては、疲れた顔で溜息をついた。
――ああ、面倒なことになった、と。
◆
(確かにジークフリート殿下の言葉には驚かされたが、だからと言って街に連れ出し、あまつさえこのような市場に来ることになろうとは……)
クロヴィスから渡されている店リストの調査に、ジークフリートを加えることになったのは一時間と少し前のこと。
だがセドリックは、最初は気が進まなかった。
十分な護衛もないまま他国の王子を連れ回すのはいかがなものか、危険ではないかと。
とは言え、行き先は宝石や貴金属、時計などを扱う高級装飾品店ばかり。
その殆どは高級街に店舗を構えており、警備や治安の心配はない。
それなら、自分やアレクシス、近衛が二人もいれば、ジークフリートを守りきれるだろう。
そう判断したからこそ、セドリックはジークフリートを連れての外出に異を唱えなかったのだ。
だが、街に着くないなや、アレクシスが向かったのはこの市場。
不信に思ったセドリックが、「行先が違うのでは?」と尋ねると、アレクシスは後方を歩くジークフリートをチラリと見やる。
「あいつのせいで朝食を食べ損ねたからな。まずは腹ごしらえだ」
「それで市場に? 確かに手軽ではありますが……しかし」
ジークフリートは由緒正しき王族だ。
きっと市場になど足を運んだことはないだろう。レストランの方がいいのでは。
セドリックはそう思った。
けれど当のジークフリートが
「市場? 全く問題ないよ。むしろ興味がある」
と乗り気を見せたために、なし崩し的に市場に行くことが決まってしまったのである。
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