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第二部
59.ジークフリートの目的(前編)
しおりを挟むそれからしばらく後、演習場では予定通り射撃演習が開始された。
だだっ広い演習場には、マスケット銃を装備した帝国軍の歩兵隊が横三列で隊列を成し、何百という銃声が絶えず響き渡っている。
そんな中、地上三階部に設けられた演習場の貴賓席には、本来そこにいないはずのアレクシスとセドリック。それに、ジークフリートと近衛二名の姿があった。
仏頂面なアレクシスに対し、やたら上機嫌なジークフリート。――そんな二人を、気まずそうに見守るセドリックと近衛兵。
貴賓席には異様な雰囲気が漂っているが、ジークフリートはそんな空気をものともせずに、アレクシスに話しかける。
「ねぇアレクシス。あの歩兵は全部で何人いるんだい?」
「……帝国軍が七千。他国の歩兵を合わせれば、およそ二万だ」
「二万? へぇ、さすが圧巻だ。的までの距離と精度は?」
「距離は三百フィート。……精度はここ二年で八割まで向上させた」
「八割か、いい数字だ。銃を改良したのかい? よくあるマスケットと変わらないように見えるけど」
「改良と言うほどではないが、銃身にライフリングを――」
アレクシスは苛立ちを必死に抑えながら、ジークフリートの質問に答えていく。
けれど内心では、悪態をつきまくっていた。
(なぜ俺がこいつの相手を……! 兄上はいったい何を考えている……!?)
――と、自分をここに送り出した第二皇子を、忌々しく思いながら。
◆
ランデル王国が王太子、ジークフリート・フォン・ランデルは、アレクシスが学生時代、ランデル王国に留学していたときの学友である。
美しい銀髪とブルーグレーの瞳に、スラっとした細身の体躯。性格は穏やかで良心的。いつも笑顔を絶やさず、国民から愛される理想の王子。
だがそれはあくまで彼の表面的な姿に過ぎず、実際のジークフリートはかなり独善的だ。
彼は『ある者の望み』が彼自身の理に適っていると思えば、それが別の誰かの不利益になろうとも、叶えてしまおうとする。
シオンはそんなジークフリートの甘言に惑わされ、半年前の宮廷舞踏会の夜、エリスを帝国から連れ去ろうとしたのだ。――『姉を返せ』と、アレクシスに迫って。
そのときは第二皇子が駆け付けたからよかったものの、もしクロヴィスが来なければ、国際問題に発展していたかもしれない。
その事件の首謀者であるジークフリートが、何の前触れもなく姿を現した。
それも、関係者以外立ち入ることのできないはずの基地内に、だ。
当然、アレクシスは大いに警戒した。
「なぜお前がここにいる。どうやって入った」
だがジークフリートは、少しも臆することなく答える。
「人聞き悪いなぁ。ちゃんと正面から入ってきたよ」
「正面からだと?」
「うん。今日から演習最終日まで、見学させてもらうことになっているからね」
「見学? 軍人でもないお前が?」
「自国の軍が参加しているんだ。何もおかしくはないだろう? ほら、ちゃんと許可も貰ってる」
と、一枚の書状を取り出して。
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