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第二部
53.リアムの憂い(後編)
しおりを挟むいけない。どうやら思考をトリップさせていたようだ。
「もし具合が悪いようなら――」
シオンは言いながら、エリスの皿をチラリと見やり、眉をひそめた。
サンドイッチが一口も減っていないことに気付いたのだろう。
つまりシオンはエリスの体調不良を懸念したわけだが、エリスの「少し考え事をしてしまっていたみたい」という答えを聞くと、疑いの目を寄こしつつも、フォローを入れてくれる。
「これからアボカドを収穫しにいこうって話してたんだ。そろそろ収穫時期だから、僕らに分けてくださるって。オリビア様が」
「ええ。アボカドは栄養価が高く『森のバター』とも呼ばれておりますの。貧血予防以外にも、色々とお勧めですのよ」
「――!」
まさか、考え事をしている間にそんな話になっていたとは……。
エリスが「よろしいのですか?」と隣のリアムを見上げると、リアムは「どうせ食べきれませんから、お好きなだけ」と笑みを浮かべる。
そんな経緯で、オリビアとシオンは席を立ち、
「では、少々席を外しますわね」
「リアム様。少しの間、姉さんをよろしくお願いします」
と言い残すと、温室の奥へと消えていった。
こうして、さっきまでの賑やかさが嘘のように、辺りが静寂に包まれた――そのときだ。
不意に、リアムが独り言のように呟いた。
「ありがとうございます、エリス様」と。
「……え?」
その声に、エリスはゆっくりと隣を振り向く。
すると、リアムのラベンダーブラウンの瞳が、じっとこちらを見つめていた。
「……リアム、様?」
その瞳は、先ほどオリビアを見つめていたときのように、どこか憂いを帯びていて。
穏やかで、優しくて、けれど、とても寂し気で――。
見つめられるだけで、まるで泣いてしまいそうになる……そんな色。
「…………」
(いったいどうして、リアム様はわたしにこんな目を向けるのかしら)
そもそも、自分は何に対してお礼を言われたのだろうか。
エリスが不思議に思うのと同時に、リアムは柔らかな笑みを湛え、唇を開く。
「あれほど楽しそうなオリビアを見るのは、何年ぶりかわかりません。それに、エリス様は私の招待を受けてはくださらないと思っていましたから」
「……え?」
刹那、エリスは小さく声を上げた。
お礼の理由が、オリビアを楽しませてくれたから、というのはわかる。
だが、招待を受けないと思っていた――というのは、いったいどういう意味だろうか。
「あの……それは、どういう……?」
招待を受けないと思っていたなら、なぜ招待状を送ってきたのか。
そもそも、招待を受けないと思った理由は何なのか。
リアムの言葉の真意がわからず、エリスは戸惑いを見せる。
するとリアムは、そんなエリスの反応を見て、『アレクシスから何一つ事情を聞かされていない』ことを確信したのだろう。
スッと目を細めると、低い声で「やはり」――と呟いた。
そうして今度は、冷めた紅茶のカップにしばらくの間視線を注ぎ――再びエリスを見据えると、こう続ける。
「気分を害されたら申し訳ありません。隠すようなことでもないのでお伝えしますが、オリビアは以前、殿下のことをお慕いしていたのです」
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