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第二部
49.リアムからの招待状(後編)
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「――え? お茶会に招待された? リアム様から?」
「ええ。リアム様とオリビア様、それから、わたしとあなたの四人でお茶をしませんかって。それで、できたらわたしたちに、オリビア様の友人になってほしいと仰っているの」
「友人? 僕らに?」
「そうよ。皇子妃としてではなく、『ランデル王国の商家の夫人、エルサ』と、その弟としてって。――オリビア様がご結婚されるまでの、数ヵ月の期限付きで」
「え? 正体を隠したままで……しかも期限付き?」
「ええ。詳しくは手紙に書いてあるわ。あなたにも読ませていいって。……とにかくわたし、これを読んだらオリビア様のことをとても放っておけなくて……でもシオンはきっと反対すると思ったから、自分の参加の返事を先に出してしまったの。相談しないで決めてしまって、本当にごめんなさい」
「――!」
その日、授業を終えたシオンはエメラルド宮を訪れていた。
十月も半ばのこの季節、午後六時ともなればすっかり日は暮れているが、学院は平日であれど、門限の午後九時までなら外出が認められている。
その為シオンは、アレクシスが出張の間はエリスも不安が大きかろうと、授業が終わるとエリスの様子を見に来るようにしていたのだが……。
エリスの部屋に通されるなり、リアムから届いた手紙について聞かされたシオンは、その突拍子もない内容に困惑せざるを得なかった。
と同時に、既に参加の返事を出してしまったというエリスに、憤りを隠せなかった。
「参加の返事を出したって……でも姉さん、まだ悪阻があるだろう? 途中で気分が悪くなったらどうするんだよ」
「もしそうなったらすぐに退席するわ。それに、気分が悪くなる原因が悪阻だとわかってからは、あまり辛くないのよ。お医者さまも、無理をしなければ外出も構わないと仰っていたし」
「……それは、そうかもしれないけど」
シオンはとても不安になった。
体調のことは勿論だが、正体を隠して会うということは、別人になりきらねばならないということだ。
自分ならともかく、果たしてエリスにそのような器用なことができるだろうか。
(姉さんに商家の夫人なんて役が務まるのか? そもそもは僕が言い出したこととはいえ……もの凄く不安だ)
それに何より、正体を隠して友人になるなど、不誠実極まりないではないか。
もしやエリスは、正体を明かす心づもりなのではないだろうか。
(姉さんの性格なら、十分あり得る)
――が、今聞いてもきっとエリスは答えないだろうし、返事を出してしまったものはしょうがない。
それに、反対されるとわかっていた……と言うくらいだから、それなりの覚悟があるということなのだろう。
(まあ、正体が知られたとしても、最悪妊娠のことだけ隠し通せれば……)
そう考えながら、一応手紙を読んでみたところ、
『オリビアは昔から病気がちで、未だデピュタントすら済ませていないこと』
『友人を作る余裕もなかったこと』
『次のデピュタントで社交界デビューを済ませたら、辺境の子爵家に嫁がねばならないこと』などが記されており、シオンも同情せずにはいられなかった。
(確かに、これが事実だとするなら、オリビア嬢があまりにも不憫だ。姉さんが相談もなしに返事を送ってしまったというのも、頷ける)
シオンは色々と考えた末、結論を出す。
「わかった。僕も行くよ。でもこれだけは約束して。絶対に無理はしないこと。気分が悪くなりそうになったらすぐに僕に言うこと。それから、姉さんの正体を知ってるリアム様はともかくとして、オリビア様とは僕が主に話すから、姉さんはなるべく黙ってること」
「え……、黙ってるって……お茶会なのに?」
「だって姉さん、ランデル語は話せても、文化も歴史もほとんど知らないだろう? 流石にたった三日じゃ、勉強するにも短すぎるし」
「……そうね、わかったわ。なるべく帝国の話題に持っていきましょう。リアム様も、そのあたりは配慮してくださるって仰っているから」
「うん、お願いね」
シオンは、上記のことをエリスに言い聞かせた上で、
「今言ったことを守れなかったら、殿下が戻ってくるまで外出禁止だからね」
と付け足すと、エリスは目をぱちくりとさせたが、前回シオンに心配をかけてしまったことを申し訳なく思っていたこともあり、大人しく頷いた。
こうして二人は、ルクレール家でのお茶会に参加することが決まったのだ。
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