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第二部
48.リアムからの招待状(前編)
しおりを挟むエリスの懐妊が判明してから、早七日が経った日の午後。
シオンは辻馬車に揺られ、エリスと共にルクレール家の屋敷に向かっていた。
三日前にリアムから招待を受けた、お茶会に参加するためだ。
――が、せっかくのお茶会だと言うのに、シオンはずっと浮かない顔をしている。
その理由は他でもない。これから開かれるお茶会に、いくつかの心配事があるからだった。
(あっという間にこの日が来ちゃったな。姉さんの体調も気になるし、オリビア嬢や使用人たちに姉さんの正体を悟られないようにしないと……。気が抜けないな)
シオンは――今日は体調がいいのだろう――外の景色を穏やかな瞳で眺める、エリスの横顔を見つめる。
(きっと姉さんは今、『どうやってオリビア嬢と仲良くなろう』とか考えてるんだろうな。姉さんは人を疑うことを知らないから。まあ、それが姉さんのいいところなんだけどさ)
――などと考えながら、一週間前のあの日のことを思い出した。
◆
そもそもの事の発端は一週間前。
悪阻で倒れたエリスがルクレール家の屋敷で世話になった、その帰り際のこと。
オリビアが「兄を紹介する」と言って、一人の男を連れてきた。
すると運の悪いことに、その男――リアムは、エリスの知り合いだったのだ。
「リアム、様……?」
「……あなた、は」
(――! この二人、まさか知り合いなのか!?)
シオンは、お互いを見つめ合う二人の姿に、ドッと全身から冷や汗が噴き出るのを感じた。
――まずい。もしこのリアムとかいう男が、エリスの本当の名前を呼んでしまったら全てが終わりだ、と。
だがリアムは、そんなシオンの心配を拭い去るように、オリビアからの「二人はお知り合いでしたの?」という質問に、このように答えたのだ。
「いや。一度、偶然お会いしただけだ。彼女は建国祭のとき、迷子の子供を保護してくださったんだよ」と。
(――!)
つまりリアムは、こちら側の事情を察し、上手く誤魔化してくれたのだ。
シオンは、リアムのそんな咄嗟の判断に心の中で賞賛を贈った。
念のため、帰りの馬車の中でエリスにリアムとの関係を尋ねてみると、
「リアム様は軍人で、殿下の古くからのご友人よ。建国祭で川に溺れた子供を助けたとき、協力してくださったの」と返ってきたことで、安心感は一層増した。
なるほど。アレクシスの友人ならば、きっと下手な詮索はしないだろう。
それに、たとえエリスの懐妊の事実を知ろうと、黙っていてくれる可能性が高い、と。
けれどその四日後、エリスの元にリアムから『お茶会の招待状』が届いたことで、シオンはいくらかの不安を抱くことになった。
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