ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

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第二部

45.二年前の真相(後編)

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 黄金色の瞳に後悔を滲ませながら、アレクシスはぽつりぽつりと話し出す。

「オリビアに火傷を負わせたのはこの俺だ。……二年前のあの日、紅茶の味に違和感を覚えた俺は、すぐに茶会を退席したんだが――」


 アレクシスが話した内容はこうだった。

 紅茶に薬が盛られていることに気付いたアレクシスは、すぐに茶会を中断し、執務室のソファで休んでいた。
 すると薬の効果か、いつの間にかうたた寝をしてしまい、気付いたときには、部屋の中にオリビアがいたという。


「お前、いったいここで何をしている? 入室を許可した覚えはないぞ。今すぐ出ていけ」

 眠気の残る気だるい頭で、アレクシスは厳しい言葉を投げつける。
 けれどオリビアは、臆することなく無邪気に微笑んだ。

「ノックしてもお返事がないから、心配しただけですのに……。にしてもその様子では、王女様方とのお茶会は上手くいかなかったようですわね。わたくしとしては、願ったり叶ったりですけれど」

 オリビアはそう言いながら、いつの間にか運び込んでいたティーワゴンでカップにお茶を注ぎ、アレクシスに差し出した。
 
「ねえ、殿下? そろそろわたくしを受け入れてくださってもよろしいんじゃありません? わたくしほど殿下の女性嫌いを理解している女はいませんわ。それに側妃の一人でも娶れば、煩わしい縁談からも解放されるかと」
「…………」

 確かに、オリビアはアレクシスの女嫌いのことをよく理解している。

 オリビアの兄リアムとは八年ほどの付き合いだ。
 つまりそれと同じだけ、オリビアとも望まぬ接点を持ってきたということになる。勝手知ったる仲――とは言えねども、媚薬を盛るような他国の王女たちに比べれば、いくらかマシな相手だろう。

 だが、アレクシスにとっての「結婚」とはそんなに簡単な問題ではなかった。女嫌いのアレクシスにとって、人生で最も重要な事柄なのだ。

 それに、アレクシスはオリビアのあけすけ・・・・した物言いが心底苦手だった。

 穏やかな兄リアムと違い、妹のオリビアはとても気が強く、プライド高い。侯爵家の令嬢なのだから当然と言えば当然だが、それにしたって、まだ十五にも関わらず「妃の一人でも娶れば、煩わしい縁談からも解放される」などと、知った風な口で言いくるめようとしてくる、傲慢な態度も受け入れがたかった。

 だからアレクシスは、差し出されたカップには見向きもせずに、冷たく言い放つ。

「出ていけ」――と。

 目の前のカップを押し戻すようにしてソファから立ち上がり、オリビアを刺すような視線で見下ろした。

「俺はお前を娶る気はない。もし再びその話を口にしてみろ。俺の権限で、リアムを僻地へきちに飛ばしてやる。侯爵にもそう伝えておけ」
「――!」

 言いすぎだという自覚はあった。
 あったけれど、これまで何度もオリビアに婚約を迫られてきたアレクシスは、もう我慢の限界だった。
 だからリアムの名前を出してまで、オリビアを遠ざけようとしたのだ。

 ――けれど、それがいけなかったのだろう。

「お前が出ていかないなら、俺が出ていく」と背を向けたアレクシスを引き留めようと、オリビアがアレクシスの腕を掴む。
 と同時に、咄嗟にそれを撥ね退けようとしたアレクシスの腕が、オリビアの身体を突き飛ばし――次の瞬間。


「……よろめいたオリビアがワゴンにぶつかり、倒れたポットの熱湯が……オリビアの左手に、かかってしまったんだ」
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