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第二部
43.二年前の事件(後編)
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本来ならば、アレクシスと二人で行くはずだった仕事の出張。
だが、その期間内に皇帝が他国の王女たちとのお茶会(という名の見合い)をねじ込んでしまったものだから、アレクシスは帝都に残らなければならなくなった。
だからセドリックは、「茶会などやってられるか。俺もお前と行く」とごねるアレクシスを必死になだめすかし、一人で帝都を離れたのだ。
だが、仕事を終わらせ急いで戻ってくると、どうもアレクシスの様子がおかしい。
本人は上手く隠しているつもりだろうが、話しかけても上の空だったり、深刻そうに思い悩んでいることが増えた。
(これはきっと、茶会で何かあったのだろう)
そう考えたセドリックは、第二皇子に話を聞きにいった。
するとクロヴィスは、「どうやら、媚薬を盛られたらしくてな」と教えてくれる。
「媚薬?」
「ああ。だがアレクシスは一口飲んですぐに気付いたというから、特に大事はなかったはずだが。――とはいえ、女性への嫌悪感は一層増しただろう。まったく、女嫌いの弟に媚薬を盛るとは、何とも面倒なことをしてくれる」
「犯人はわかったのですか?」
「いいや、不明だ。というより『捜さなかった』という方が正しいな。何せ茶会の参加者は他国の王女。それも五人。毒ならともかく、媚薬程度では騒ぎたてたくないというのが宮内府の本音だろう」
「…………」
(媚薬、か)
セドリックは考え込む。
果たして、アレクシスが媚薬を盛られた程度で、ああも様子がおかしくなるだろうか。
女性に対する怒りや嫌悪感を強めることはあれど、何か物憂げに表情を暗くする必要などあるだろうか、と。
(もう少し、調べてみるか)
そう考えたセドリックは、茶会について更に詳しく調査することにした。
だが結局、特にこれといった情報は得られず、時間の経過と共にアレクシスの様子も以前の様(といっても、女嫌いは変わらずであったが)に戻っていったこともあり、セドリックは最近まで二年前のことをすっかり忘れていたのだ。
けれど建国祭にて、アレクシスが自分に黙ってリアムと会う予定でいたことを知り、急に二年前のことを思い出した。
当時は茶会の事ばかり気にしていたが、そういえば、オリビアがアレクシスの前に姿を現さなくなったのも丁度二年前だった、と。
セドリックの何気ない、
「オリビア様、最近来られませんね」という言葉に過剰に反応したり、
「そういえば、リアム様が長期休暇を申請されたようですよ。オリビア様の療養に付いていかれるようで」
との日常会話に気まずそうにしていのは、単なる女性嫌いを発動させていたわけではなかったのでは、と。
――一度疑い始めると最早そうとしか考えられなくなったセドリックは、建国祭以降、時間を見つけてはオリビアとリアムについて調査していた。
すると最近になって、何とも不可解な事実が判明したのである。
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